第9章 覚醒
「そうじゃ。誰彼構わず、雷(いかずち)を打ち下ろしておった。人間は妾が守ったが、弱い妖怪どもは皆気絶しておる」
「な、な、い、いかずち? いかずちって、あの、かみなりの事?」
「そうじゃ。覚醒早々、妾譲りの力を振るったのじゃ。妾は舞香が覚醒してくれて嬉しいぞよ?」
お母さんは猫のような目を嬉しそうに細める。
って……
「か、覚醒ー!?」
私は慌てて自分の身体を見た。
しかし、お母さんのような獣にはなっていない。
きちんと、指も5本ある。爪は長いけど。
顔も触ってみたが、別段変わった所はなさそうだ。
額に突起のようなものがあるだけだ。
「あまり変わってないように思えるけど…」
「人型よりも一段と美しくなっておるぞよ?」
美しく?
でも、お母さんはお父さん似の私の事をいつも可愛い可愛い、って言ってるから、言葉通り本当に美しいのか判らない。
うーん、と考え込んでいると、前方からジャリと地面を踏み締める音が聞こえて来た。
顔を上げるとそこには、肩から多量の血を流している夜リクオ君がいた。
白い着物にマフラー姿の氷麗ちゃんが支えている。
「血-っ!? ど、どうしたの!?」
思わず叫ぶと、氷麗ちゃんが私をキッと睨んだ。
「しらばっくれないで! 貴女がリクオ様に傷を負わせたんじゃない!」
私が!?
胸が締め付けられるほど、痛くなる。
泣きたくなった。
「ごめ、」
唇を噛み締め眉を八の字にしながら、口を開こうとすると、夜リクオ君は怒る氷麗ちゃんを片手で制し、「こんくらいの傷、どうってこたぁねぇ」と不敵な笑みを浮かべながら言い放った。
そして私の目の前まで歩み寄ってくると、片膝を折り視線を合わせ、私の顎に手を添えた。
「もう大丈夫みてぇだな……」
「え? 大丈夫、って……」
あ……、もしかして、暴走した事を言ってる?
「ご、めん、なさいっ! 暴走して、ごめんなさい!」
泣きそうな声で謝っていると、突然離れた場所から、尊大な笑い声が上がった。
「クッハハハハハ、素晴らしい! 素晴らしい力だよ。有永舞香! これなら誰もが納得する。さあ、ボクの元に来たまえ!」