第9章 覚醒
頭の中は奴良リクオを殺す事でいっぱいだった。
他の事は何も考えられない。
熱く昂ぶる身体。目に入るものが皆敵に見える。
私は群がる妖怪達に向かって、咆哮と共に漲る”力”を思い切り放出した。
そして、本能のまま敵に噛み切る。
口の中に甘い味が広がった。
と、突然、お母さんの切羽詰まった声が耳に飛び込んで来た。
「舞香!」
そして、同時に頭の中にお父さんの優しい声が響き渡った。
――ボクの愛しい子。殺してはダメだよ。魂が欠けてしまう――
「……、お、とうさん……?」
意識がだんだんとハッキリして来る。そして見えて無かった周りの景色が徐々に鮮明に見えて来た。
自分が居るのは、夜の繁華街の中だった。
そしてうつ伏せ状態になっていた。身体が長い数珠でグルグルと巻きつかれている。
背中は誰かに押さえ付けられていた。
え? なに? なにかあった?
首を動かしキョロキョロ周りを見渡すと、周りに異形の妖怪達が白い煙を上げながら、たくさん倒れ伏していた。
立っているのは、数えるくらいしかいない。
そして立っている妖怪達は、私を遠巻きに見ていた。
ビルの入り口や歩道の端で、こちらを怖々とした目で見ている人間。
「ここ、どこ?」
自分がどういう状態になっているのか、さっぱり判らない。
確か、自分の部屋に居たハズなんだけど…
と、自分の身体の違和感に気付いた。
爪が異常に長い。
「なんで?」
と、背中からお母さんの声が聞こえて来た。
「正気に戻ったかえ?」
「お母さん?」
上半身を捻り後ろを向くと、雷獣に変身したお母さんが前足で私の背中を押さえ付けていた。
なんで押さえ付けられてんの!?
もしかして、私、怪獣みたいに暴れたとか?
覚えの無い行動に不安になっていると、背中の圧迫感が止んだ。
お母さんが前足を背中から降ろしたのだ。
雷獣姿のお母さんは眉を顰めている私の横に前足を揃えて腰を降ろすと、私の頬をザラリとした舌でひと舐めした。
「舞香。お主は、暴走しておったのじゃ」
「暴、走?」
ぼ、ぼ、ぼ、暴走って、なにー!?
街中を刃物振り回して暴れ回った!?
うわーっ! 犯罪者になっちゃったー!?
思わずムンクのような顔をし、叫び声を上げそうになる。
そんな私の横で、お母さんは言葉を続けた。