第9章 覚醒
お母さんに救助信号を必死で送っていると、奴良リクオは私の耳元に唇を寄せた。
「オレは有永サンのコト、結構気に入ってんだぜ?」
その言葉にドキンッと心臓が大きく跳ねる。
そして、吐息が耳にかかり、背筋に甘い震えが走り抜けた。
そんな私を見た奴良リクオは目を細めたかと思うと、耳たぶに薄い唇を落とし、カプッと軽く食まれた。
なっ!?
い、い、今、なにをっ!?
頭の中が真っ白になる。奴良リクオは言葉を続けた。
「返事はくれねぇのかい?」
「へ、へ、へんじぃっ!?」
声が裏返った。
でも、そんな事気にする余裕なんてない!
返事って何!? 返事って何!?
さっきより頭が混乱する。
と、突然奴良リクオは如何にも面白いと言った顔でクッと小さく笑った。
「もっと色気のある返事が欲しいもんだぜ…」
そのまま、肩を小さく揺らしククッと笑い続ける。
っっ!? も、も、もしかして、からかわれた!?
だんだんとムカッ腹が立ってくる。
すごく焦ったのに!
と、私はふとある事を思いつき、奴良リクオの頬に右手を伸ばした。
意趣返しをしないと気がすまない。
私は顔を近づけると、えいやっと頬にキスした。
唇に感じた奴良リクオの肌は、スベスベしてて、柔らかい。
意趣返しでキスしたのに、何故か恥ずかしい気持ちで胸がいっぱいになる。
顔が熱くて、心臓がバクバクする。
唇を離すと驚愕に目を見開く奴良リクオの顔が目に入ってきた。
意趣返し成功!?
でも、反撃の為にやったのに、何故か顔から熱が引かない。
すごく恥ずかしくてたまらない。
私は早口でまくしたてた。
「お、おかえしっ!」
そして羞恥に顔を真っ赤にしながら、再度、どいて、と奴良リクオの胸を押し返すと、今度は「あ、あぁ……」と言いつつすんなり離れた。
身体の上の重しが取れて、ホッと胸を撫ぜ下ろす。
し、心臓止まるかと思った・・・!
と、突然、窓がガラッと音を立てて開けられた。
現れたのは、背中に黒い翼を生やし、鎧を着込み、頭に山伏が付けているような頭襟(ときん)をつけている青年だった。
って、つ、翼!?
吃驚した私の視線に構わず、その青年は奴良リクオに向かって大きく声を上げた。
「若! すぐにお戻りを!」