第9章 覚醒
私が布団の中で目を閉じたのを確認したお母さんは、そのまま部屋を出て行った。
多分、私が目を覚ました事に安心して、家事に戻って行ったのだろう。
私は再び薄目を開けると、白い天井を見つめた。
そして先程疑問に思った事を考えてみる。
最後にはノロケ話しになったけど、お母さんは自分の意志でこの町を出て行った、と言っていた。
玉章はぬらりひょんに追い出されたと言っていたのに。
と言う事は、玉章は嘘をついていた事になる。
何故嘘を言う必要があるんだろう?
一体何の為に?
考えても判らない。
「でも、この町を出たのはぬらりひょんの所為だ、という言葉は否定しなかった……」
多分戦った時、ぬらりひょんから卑怯な手段を使われたのかもしれない。
それだったら、玉章は嘘をついてない。
ただ、この町を出て行った姿を端(はた)から見たら、追い出されたように映ったのかもしれない。
やはり、ぬらりひょん一族は許せない。
正義の鉄槌を下さないと!
「でも、四国の幹部に認めて貰うには、やっぱり奴良リクオを……」
誑かさないといけない。
先程お母さんに反対された事柄だ。
「どうすればいいんだろ?」
反対された事を実行すれば、絶対に怒られる。
私は布団を頭まで被ると、ぐるぐる考えた。
でも答えは出ない。
「あー、もう、どうしよう!」
ガバッと起き上がり、思わず叫ぶと窓辺の方から艶のある低い声が聞こえてきた。
「有永サン。元気そうじゃねぇか」
「え!?」
声が聞こえて来た方にバッと顔を向けると、窓際に腰かけた夜リクオ君が居た。
長い銀の髪を横に靡かせ、黒の着流しの上に葱緑(そうりょく)色の羽織を羽織っている。
「よう」と軽く手を上げる奴良リクオに、私は驚きで目を極限まで大きく見開いてしまった。
「なんで、ここに!?」
と、奴良リクオはニッと不敵な笑みを口元に浮かべた。
「なんでだか判んねぇかい?」
そう言うと、スッと立ち上がり、ベッドの傍まで近付いて来た。
目を丸くして見つめていると、私の頬に右手を添える。
「つれねー女だぜ。オレがここに来たのはこういう意味だ。それともオレの事が嫌いになっちまったのかい?」