第9章 覚醒
「じゃが、どうして奴良リクオを誘惑したいのじゃ? 惚れておるなら話しは別じゃが、舞香は嫌っているようだったが……?」
えーっと、お母さんに四国の事、言ってもいいかな?
良いよね? お母さんとすごく関係のある事だから!
そう決意すると、私は口を開いた。
「あのね。お母さんの敵(かたき)を取る為なんだ」
「敵(かたき)じゃと?」
訝しげな反応が返って来たが、私は気にする事なく、勢い良く言葉を続けた。
「うん! この町からお母さんを卑怯な手を使って追い出したのは、ぬらりひょんでしょ! だから…!」
「……少し待つのじゃ。舞香。妾は追い出されてなど居ないぞえ?」
「え?」
「妾は自分の意志で、この町を後にしたのじゃ」
え? え?
お母さんの意志で…?
「でも、その原因はぬらりひょんでしょ!?」
そうだ。お母さんはぬらりひょんに卑怯な目にあわされたのだ。
お母さんを卑怯な手口で追いつめるなんて、許せない!
と、お母さんは私の頭を再び撫ぜた。
「舞香……。少し、昔語りでもしようかのう……」
そして、遠い目をしながらゆっくりと語り出した。
約400年ほど前に、外つ国からこの国に辿り着いたお母さん。
”力”を求めていたお母さんは、魑魅魍魎の主であるぬらりひょんに戦いを挑んだ。
しかし僅差で負けた。
お母さんは自分の”力”を向上させる為、江戸を去った。
各地を周っていると、修行の旅に出ていた僧侶のお父さんと運命の出会いをする。
そして今に至り、今は”力”などどうでも良く、ただお父さんと私が居ればそれだけで、とても幸せ、と言う事だった。
って、ん?
「ちょっと待って!? お父さんが旅の僧侶!? 今の時代、滅多に有り得ないと思うよ!?」
「誰が今と言うたのじゃ。400年程前に決まっておろう」
はい!? 400年前!?
「お父さん、妖……かい!?」
嘘だ!
あのいつもニコニコ笑顔が絶えないお父さんが妖怪なんて、嘘!
パニックに陥っていると、お母さんは小さく溜息を零すと呆れたような声音で口を開いた。
「れっきとした人間じゃぞ?」
「じゃあ、不老不死!?」
「人間じゃと言っておるぞよ? 400年前は色々有り離れ離れになってしまったが、妾と結ばれる為に転生してくれたのじゃ」