第9章 覚醒
目を覚ますと見慣れた白い天井が目に入って来た。
「あれ? ここ…、私の部屋……?」
「舞香!!」
「わっ!?」
横から大声で呼びかけられたと思ったら、突然上半身を華奢な腕が包み込んだ。
そして、ぎゅっと強く抱き締められる。
「母に心配かけるでない!」
その声はお母さんのものだった。微かに震えている。
もしかして、心配かけた?
すごく申し訳ない気持ちになり、私は眉を下げて「ごめんなさい……」と謝った。
でも、あれ? なんか、デジャビュ?
お母さんは秀麗な顔(かんばせ)を上げ、私を優しく見つめると嬉しそうに目を細めた。
そして、私の前髪をそっと掻きあげる。
「まあ、良い。病気ではないようじゃったので、良かったぞえ」
「え?」
私は経緯を思い出す。
えーっと、奴良リクオに手を引っ張られて校舎に戻ってたら、急に目の前が真っ白になって…
あれって貧血っぽかったんだけど……
病気じゃないとしたら、なんなのだろ?
と、すぐにお母さんが軽やかに笑いながら答えを口にした。
「ホホホ。知恵熱じゃと医者は言っておったぞえ? 今になって知恵熱とは、舞香もまだまだ子供じゃのう」
「はい!?」
知恵熱!?
子供が難しい事を考えた時に発熱する、アレ!?
「えぇえ!? 私、難しい事なんて考えて無かったよ!? ただ奴良リクオをどうやって誘惑しようかと考えて……」
「奴良リクオを誘惑じゃと?」
地を這うような低い声がお母さんの口から洩れる。
「あ、えっと、その……」
なんて言おうか迷っていると、お母さんはガッと私の両肩を掴み、凄い勢いで口を開いた。
「何故、そのような事をするのじゃ! 舞香は妾の自慢の娘じゃ! 誘惑などせずとも、微笑みかけるだけで、奴良リクオなどいちころじゃ!」
えーっと、それって漫画や小説の中だけでの話しじゃないかな?
現実に、そんな事なんて、無いよ、お母さん。
苦笑しつつも、心の中でお母さんの言葉に反論していると、お母さんは私の頭を一撫ぜする。
「舞香の微笑みは、パドマーヴァティー様ほど美しいぞえ?」
バドマーなんとかって……、誰!?
そんな人知らない。
知らない人と比較されてもなぁ……
と、お母さんは突然疑問を口にした。