第9章 覚醒
ガシャンッという金網を掴むような音と共に、奴良リクオの声が上から降って来た。
「居た! 有永さん!」
今居る所は、学校のグラウンドよりも1メートル程段差がある。
奴良リクオはグラウンドと外部を隔てる目の大きい金網を両手で掴み、こちらを見下ろしていた。
見上げる私に、奴良リクオは慌てたように「有永さん、そこ動いちゃダメだよ!」と言い放つと、姿を消す。
多分、ここに通じる道から、私の元に辿り着くつもりなのだろう。
そう言えば、私って犬神と会う為に保健室抜け出したんだよね?
「うわっ、ここにどうして居るのか、追及される!?」
オロオロしていると、グラウンドの脇にある小道から奴良リクオが姿を現した。
「有永さん!」
「は、はい!」
思わずシャンと背筋を伸ばし、礼儀正しい返事を返してしまう。
そんな私を気にする事なく、奴良リクオは駆け寄って来た。
そして、私の両二の腕をグッと掴む。
「具合悪いのに、勝手に出歩いちゃダメじゃないか!」
私はその剣幕に目を瞠った。
なんで、怒ってるんだろ?
「どこも痛くない!?」
そして続く必死な言葉に、私は思わずコクコクと頷く。
「え、えっと……へ、平気かな?」
「本当に?」
念を押すように聞かれ、バカ正直に再びコクリと頷く。
と、自分の失敗に気付いた。
しまった! 私、お腹が痛かったんだっけ!?
「あ、あの!」
慌てて言いわけをしようとすると、何故か奴良リクオはホッとしたように笑った。
「良かったー。保健室に戻ったら有永さんが居ないんで、心配したよ」
その言葉に何故か罪悪感が襲って来た。
私は小さく首を振りそれを否定する。
奴良リクオは敵。
憎い敵。
そう、粛清しないといけない相手。
「それじゃあ、戻ろうか」
そのまま右手を握られた。
何故か心臓が大きく跳ね上がる。
なに、これ、……、何!?