第9章 覚醒
「まあ、いい。ボクは寛大だから今の発言は許すよ…。でも、覚えておくといい。次は無い」
その圧力に押しつぶされそうになり、私は喘ぐように呼吸をしながら、首を縦に振った。
と、乱暴に髪を離す。私は離された拍子によろける。
そんな私に冷ややかな視線を向けながら静かに口を開いた。
「ボクは四国八十八鬼夜行の主だ。お前の主にもなるんだ。覚えておけ」
主?
「な、かまじゃ、ないの?」
そう問うと、フッと重圧が止んだ。
力が抜け、思わずその場に座りこむと、玉章から顎をクイッと持ちあげられる。
「そうだ。仲間だ。しかし、実績が無ければ他の幹部は納得しない。そこで、だ」
玉章の眦が吊り上がった目が、妖しい光を宿す。
「奴良リクオを嵌めるんだ」
「え?」
嵌める?
嵌めるって事は相手を騙して陥れる、って意味で……
嘘を付いた事はあるけど、相手を陥れたことなんて無い。
私に出来る?
眉を寄せて考えていると、玉章は私の顎を掴んだまま更に言葉を続けた。
「間者からの報告によると、奴良リクオはお前に好意を寄せているらしい」
「はえ!?」
妙な音質の声が口から飛び出た。
素っ頓狂な声とは、まさにこの事かもしれない。
って、
「ないない、ないないっ!」
私は思い切り否定した。
奴良リクオが私の事好きだなんて有り得ない!
確かに奴良リクオは具合の悪いフリをした私を保健室に連れて行ってくれたけど、他意はないと思う。
奴良リクオは誰にでも優しいフリをしているのだ。
と、玉章は一瞬片眉を上げるが、元の表情に戻ると私の意見を無視し、話しを続けた。
「その気があるように振る舞い、最後にこっぴどく振る。親の敵に対する制裁としては、なかなか良い案だと思わないかい?」
親の敵。
お母さんをこの町から追い出したぬらりひょん。
その孫が私に騙されて、泣きそうな顔をするのを見ると胸がスカッとするに違いない。
と、奴良リクオの悲しそうな表情が脳裏に浮かぶ。
すると、何故か胸の奥が一瞬ズクッと痛んだ。
今の痛み、なんだろ?
気の所為?
首を少し傾げる。そんな私を悩んでいるのかと勘違いしたのか、玉章は畳みかけるように口を開いた。