第9章 覚醒
しまった! と、言うような顔をすると、奴良リクオは慌てて立ち上がった。
「ごめんっ、有永さん! 次の授業の準備したらすぐ戻って来るから!」
そう言うと、保健室から慌てて出て行った。
しばらく様子を伺うが、戻って来る様子は無い。
「よしっ!」
私は早速ベッドから起き上がると、ベッドの脇に置かれていた室内履きを履いた。
そして、横にある大きな窓を開ける。
ちなみに保健室は校舎の1階にあるので、窓から外に出ても怪我をする事は無い。
窓を乗り越え茶色い地面に着地するとぐっと拳を握った。
「脱出、成功!」
でも、喜んでばかりは居られない。
早目に犬神に会わないと。
気を取り直し、私は周りを見回した。
まだ授業と授業の間の短い休み時間なので、トイレに行く女の子達の声が聞こえて来る。
だが、それは校舎内から聞こえて来るだけで、周りに人影は無い。
「犬神、どこ行ったんだろ?」
まだどこかに居てくれれば良いけど…。
でも居るとしたら、きっと人気の無いとこだ。多分。
人気のないとこって言ったら……
「体育館裏とか…、もしくは校舎裏?」
取り敢えず私は思いついた場所を回る事にした。
居ない。
体育館裏も校舎裏も居ない。裏庭にも居ない。
グラウンドを囲っているフェンスの影かもしれない、とそこも確認しに行ったのだが居なかった。
私はいつの間にか、グラウンドの脇を通り、その横にある池の傍に来ていた。
池の中からチャポン、と音がし、小さな魚が飛び跳ねる。
ここは旧校舎の探検をした時、最初に集まった場所だ。
「懐かしいかも…」
そう呟いていると、池の向かいにある木立がガサリと音を立てた。
「犬神?」
と、突然渦巻き状の風が現れ、木の葉が螺旋の形に舞いあがった。
吃驚していると、螺旋状に渦巻く木の葉の中から、一人の青年が現れた。
それは、黒々とした髪をきちんと撫ぜ付け、他校の制服を着た青年だった。
数日前、奴良リクオに話しかけていた四国妖怪、玉章だ。
切れ長の鋭い目がこちらに向けられる。
玉章は腕を組んだまま、居丈高な口調で口を開いた。
「有永舞香、だったね。こんな所で何してるんだい?」