第9章 覚醒
パイプで造られた簡易ベッドの上に横になり、白い掛け布団を顔の半分くらいまで引き上げて寝たフリをしていると、淡いグリーンのカーテンの向こうでガチャガチャと音がしてきた。
保健室を出て行った気配が無かったから、きっと音を立てているのは奴良リクオなのだろう。
何してんだろ?
眉を顰めて様子を伺っていると、突然カーテンが開かれると同時に氷嚢を持った奴良リクオが現れた。
氷嚢? なんで?
疑問に思うが、自分が仮病な事を思い出し、慌てて目を閉じた。
すると、額の上に氷を入れたナイロン袋……氷嚢が置かれる。
「っ!」
冷たいっ!
その冷たさに思わずぎゅっ目を瞑ると、慌てたような声が降って来た。
「ご、ごめん! 重すぎたかな?」
「……」
その問いかけに返事は返さない。
ここで騒いだりしたら、仮病がバレてしまうからだ。
私は眉を顰めたまま寝たフリを続行する。
冷たい!
くうっ、私の事はどうでもいいから、早く保健室から出て行ってー!
心の中で真剣に念波を送っていたが、それは届かなかった。
反対に傍で「眉顰めてるけど、頭痛が酷いのかな?」と呟いている。
このままだと埒があかない。
なので、直接訴える事にした。
私は薄目を開く。
そして、ベッドの傍の丸椅子に腰かけてこちらを見つめている奴良リクオに口を開いた。
「奴良くん…」
「有永さん? 無理しないでもっと寝といていいよ。あ、氷、重くない?」
「あの、私、大丈夫だから、教室戻って……」
「ダメだよ! 苦しんでる有永さんを放っておけないよ! それにもうすぐ氷麗が戻って来るから、もうちょっとの我慢だよ」
「いや、私の所為で授業遅れるの悪いし…」
「え? 平気だよ。ボク数学得意だし」
そう明るい表情で返され、一瞬別の殺意が燃え上がる。
ぬっ、どうせ、私は数学出来ません!
だが、今はここを抜け出すことが先決。
どうやって丸めこもう?
うーん、と考えていると、3限目終了のチャイムが鳴った。
それと同時に良い考えがピコーン! と思いつく。
「ぬ、奴良君!」
「どうしたの? 有永さん」
「あ、あの、奴良君、いつも日直の仕事してるよね? 3限目終わったけど、次の授業の為に黒板を消したりとかしなくていいのかな?」
「あっ!」