第9章 覚醒
お母さんを追いだしたぬらりひょんや人間を倒すのに力を貸してくれる。
それは、怒りに燃える私にとって甘美な囁きだった。
「ほんと、に……?」
犬神は、長い舌を出しながら器用に口角を上げ笑った。
「もちろんじゃ。玉章にとっては赤児の手を捻るようなもんぜよ」
「………!」
私はコクリと唾を飲み込む。
私は……、私はお母さんの無念を晴らしたい。
お母さんを追い出したぬらりひょんやこの町の人間に復讐したい!
「な、かまに、……なる!」
「大歓迎ぜよ」
私の言葉に犬神は、にこやかな笑顔を向けた。
と、重大な問題を思い出す。
私はお母さんの血を引いているが、変身はしたことがない。
と言うか変身の仕方も知らない。
こんな私でも、仲間になれるのだろうか?
「あの……」
犬神に呆れられる?
それよりも前言撤回される?
胸の中で不安が渦巻く。
不思議そうな顔で私を見る犬神に、私は思い切って口を開いた。
「わ、たし、妖怪に変身したことないの!」
「はぁ?」
「だ、だって、今まで人間として生きてきたから、変身する必要無かったし……」
必死で言いわけをする私に犬神は再度顔を近付けるとスンスンと鼻をひくつかせた。
「プンプン獣の匂いさせとるぜよ。案外、覚醒近いんじゃねーの?」
「覚醒……、妖怪に変身出来るようになるって事?」
「そう言っとるぜよ」
犬神は顔を上げると踵を返した。そして振り返りながら片手を上げた。
「また来るぜよ」
そう言うと再び犬神は電柱の陰へと消えて行った。
日はいつの間にか落ちている。辺りは薄暗い。
「獣の匂い……」
私は袖をスンスンと匂ってみる。
しかし、別に何も匂わない。
でも、覚醒が近いと言う事は、ぬらりひょんの孫と真っ向から勝負出来るという事だ。
私が、お母さんの敵を討つ!
敵意を燃え上がらせた。
この時、矛盾した箇所がポロポロとあったと言うのに、私はそれに気付かなかった。