第9章 覚醒
院内に足を踏み入れるとまず受付の人に鳥居さんの病室を聞いた。
そして、エスカレータを使いに鳥居さんが居る病室へ向かった。
と、先頭を歩いている清継君の手には、小さな千羽鶴の束が握られていた。
通常の長さよりも短いので、鶴は千羽無い事が判る。
と言うか、なんで中途半端な千羽鶴持ってんだろ?
疑問に思っていると、ふいに清継君が振り向いた。
「そう言えば、有永さん。金曜日に会ったおじいさんは大丈夫だったのかい?」
「え?」
私は目を瞬かせる。
何の事だか全然判らない。
「おじいさん?」
私の問いかけに、清継君は、何故か目を煌めかせ両手を大きく開いた。
「いやだなぁ、あの妖怪みたいな縦長頭のおじいさんだよ! 帰宅途中のボクが駅の構内で声掛けたら、具合が悪いから病院へ連れて行くって言ってたじゃないか」
金曜の帰りに清継君に会った記憶なんて、全く無い。
しかも、縦長頭の妖怪みたいなおじいさんなんて、全然知らない。
「?」
「次はきちんと紹介してくれたまえよ! 有永さん!」
「へ?」
首を傾げる私に構わず言葉を続ける清継君。
紹介してくれ、と言われても……そんなおじいさん知らない……
「……」
本当に不可解な事ばかりだ。
金曜と言えば、確か空白の時間があった時。
おじいさんを病院に連れて行ったのなら、覚えているはずだけど…
なんで?
なんで記憶に残って無い?
うーん、と頭が痛くなるほど考えても、その原因が判らない。
思い切り眉を顰めていると、いつの間にか鳥居さんの居る病室の扉の前に辿り着いていた。
清継君はその病室の扉を勢い良く開ける。
「やあ、マイファミリートリー! 元気かな!?」
いや、元気だったら、入院してないって。
私は心の中で突っ込みを入れる。
まあ、でもそれも清継君の持ち味と言うか、個性なんだろう。
そう考えつつも、私は皆に続いて病室へ足を踏み入れた。
その病室は4つのベッドが置かれてあり、それぞれ白くぶ厚いカーテンで仕切られていた。
鳥居さんは、入って右の窓辺のベッドで、上半身を起こしている。
何故かベッドの上に巻さんが、口を大きく開けイビキをかきながら眠っていた。
鳥居さんは目を丸くしながらも、嬉しそうに笑顔で迎えてくれた。
「あ、みんな。来てくれたんだ!」