第9章 覚醒
私は無言で首を横に振った。
すると奴良リクオは、キョトンとし首を少し傾げた。
「どうしたの? 具合悪いのかなあ?」
額にペタッと奴良リクオの手が置かれる。
「っ!」
手を振り払いたいのに、身体がピキンッと音を立てて硬直した。
何故か心臓の音が大きくなる。
「熱は無いみたいだね。ノート置いとくから、提出する時、一緒に出しといてよ」
「あ、リクオ君、舞香ちゃんに貸す前に、問4見せてくれる?」
「うん。いいよ!」
笑顔でカナちゃんと会話を交わした奴良リクオは、大学ノートを私の机の上に置くと自分の席に戻って行った。
身体の硬直が取れた私は、脱力しながらその机の上に置かれたノートを見た。
もしかして……罠?
いや、罠でなくても、敵である奴良リクオのノートなんて見たくない。
私は、ノートを手に取るとカナちゃんに渡した。
「ありがと! すぐに返すね」
「ううん。そのままカナちゃん持っててくれるかな?」
「え? どうして?」
不思議そうな顔をするカナちゃんに私は言葉を続ける。
「宿題忘れたの自分の所為だし。潔く怒られる」
「え……、でも……」
「大丈夫! こう見えても怒られ慣れてるから!」
カナちゃんを安心させる為に、笑顔で嘘をついた。
しかし、私の言葉に顔を曇らせる。
「舞香ちゃん……。それもちょっとどうかと思う……」
「あー……」
と、そこで始業ベルが鳴り響く。同時に教室の入り口の扉が横に開き数学の先生が入って来た。
数学の先生は、扉の前で始業ベルを待っていたのかと思うくらい、時間に正確だ。
何か言おうとするカナちゃんに手を振り席に着くのを見届けると、私は先生から怒られる覚悟を決め、前を向いた。