第9章 覚醒
土日を挟んだ次の月曜日。
奴良リクオは朝からクルクルと動き回っていた。
5限目と6限目の間の休み時間の今もそうだ。
奴良リクオは、せっせと黒板を消している。
今日の日直の人は、仕事を奴良リクオに任せ、友達と楽しげに会話をしていた。
奴良リクオは、お母さんの敵の孫。
絶対に何か裏があって、あんな事をしてるんだ。
私は奴良リクオの背中を睨みつける。
でも、背中を見ているうちに胸の奥がキュッと締め付けられる感覚に陥った。
その痛みはまるで、私の思考を否定するような…
「この痛みって……何? っ! まさか!」
私は再び奴良リクオの背中を見る。
まさか、敵の思考を狂わす電波でも発信してる!?
眉を顰めそう考えていると、右肩をチョンチョンとつつかれた。
顔を上げると今日も可愛いカナちゃんが居た。
「舞香ちゃん。どうしたの? 眉間に皺がすっごい寄ってるよ?」
「え?」
私は慌てて自分の眉間に手を当てた。
「次の授業の事考えてたんでしょ? 舞香ちゃんの苦手な数学だものね」
「あ、うん。今日も難しいんだろなーって」
奴良リクオを睨んでた、なんて言えない。
苦笑いする私にカナちゃんは可愛らしく首を傾げ言葉を続けた。
「あ、難しいと言えば、宿題やって来た? 問4難しかったわよね」
「宿題?」
「………え? 舞香ちゃん。もしかして…」
「え、えーっと……、宿題なんてあったっけ?」
記憶に無い!
カナちゃんは、私の言葉を聞き不思議そうな顔をする。
「昨日宿題出されたじゃない。日誌にも宿題の範囲書いたでしょ?」
「か、書いたような、書いてないような……」
日誌を書いていた事は覚えているけど、どこをどう書いたか覚えてない。
「もう。あと5分しか無いわよ?」
「えぇ!?」
うわー! もしノート提出って言われたら、完璧に怒られる!
冷や汗が、ダラダラと頬を滑り落ちた。と横から奴良リクオの声が割り込んで来た。
「有永さん。宿題忘れたの?」
ムカムカして来ると同時に、胸の奥が相反するように小さくトクンと脈打つ。
それを無視して、私は眉を顰め奴良リクオを見た。
そんな顔の私に気にした様子も無く、笑顔で大学ノートを差し出して来る。
「はい。ノート提出は多分授業の終わりごろだから、その間に写しなよ」
敵の情けは受けたくない。