第9章 覚醒
「だったら、相手を貶すような事を言ってはいけないよ? 例え本人が居なくてもね」
「別に貶してないよ?」
「そうじゃ。今まで関わって来ていた事が間違いじゃったのじゃ」
「芙蓉?」
お父さんに名前を呼ばれ、何故かお母さんは慌てて視線を逸らす。
「とにかく。何があったのか判らないけど、奴良君は仕事を手伝ってくれたんだろう? 感謝の気持ちを忘れてはいけないよ?」
諭すように言うお父さんに、私は苛立った。
お母さんの敵になんで感謝しないといけない?
「い・や・だ!」
私はお父さんに強く言い放つと、残りのカレーを口の中にかき込み、席を立った。
そして、苛立った気持ちのまま、自分の部屋に戻る。ベッドの上で膝を抱えながら、下唇を噛んだ。
なんでお父さんは、奴良リクオの味方をするの?
お母さんの敵なのに!
お母さんが可哀そう!
それともお父さんは、お母さんから事情を聞いてない?
「あ……、そっか。お父さんは人間だから、事情を話してないのかも」
それだったらお父さんに、私から話した方が良いかもしれない。
でも、さっきお父さんに大きい声で怒鳴った手前、なんだか改まって話しをするのは、気まずい。
「もう少し時間を置こう。うん」
私は、お父さんに事情を話すことを決意する。
そう。ぬらりひょんが、どんなに狡猾で残忍かを話さないと!
拳を固め決意に燃えた私は、頭の中の『ぬらりひょんの孫』の原作知識が消え去っている事に気が付かなかった。
原作の知識があれば、有り得ない話しに違和感をすぐに感じたのに。
そして、偽りの記憶に踊らされている事に気付いたのに。