第9章 覚醒
慌てて口を閉じ、言い訳を捜すが、急には出て来ない。
「舞香……?」
お母さんは低い声で私の名前を呼ぶと、振り返った。
こわっ、こわっ!
「あ、や、違う、違う。今のは、例えであって、お母さんは老けてないよ? うん!」
「舞香はチキンが小さいのが好みじゃとな? 愛しい吾子の願いじゃ。涙を飲み小さいのを入れてやろうぞ」
「うわっ! 酷っ! 大きいのがいいよ! お母さん!」
「聞こえぬ。聞こえぬのう」
「ごめんなさいー! お母さんー!」
お母さんには敵いませんでした。
食卓に上がったのは、大きなチキンを使った、チキンカレー。
お母さんの作るカレーは、本格的で美味しい。
小さい頃、習って作ってみたのだけど、お母さんの美味しさには程遠かった。
何が違うのかな?
チキンを口の中でモグモグさせながら、思いふけっているとテーブルの向かいに座っていたお父さんが口を開いた。
「舞香。学校で何も無かったかい?」
「ん? いつも通り。あ、今日は初めて日直の仕事をしたんだ!」
「ははは。そうかい。大変だっただろう?」
「大変……」
私はスプーンを口に咥えながら学校であった事を思い出す。
ふっと奴良リクオ君の顔が浮かんで来て、胸がツクンと微かに痛みそれが何か覆いかぶさったと思うと不快な気持ちに変わった。
ムカムカと怒りが沸いて来る。
「あのね、クラスメイトの奴良リクオ君。知ってるでしょ? あの子が日直でも無いのに、日直の仕事全部やってしまったんだ。もう、余計な事してくれなくてもいいのに……」
そう言うと並んで座っていたお父さんとお母さんは顔を見合わせた。
「舞香。あの童(わっぱ)と仲が良かったのでは無かったのかえ?」
「え? なんで?」
私は眉を顰めた。
なんでそんな事言うんだろ?
確かに妖怪から助けて貰ったし、家にも泊めて貰った。
けど、大好きなお母さんの敵の孫だ。
仲良くするわけない。
パクパクとカレーを食べていると、お父さんが心配そうな顔をしながら、口を開いた。
「奴良君と喧嘩でもしたのかい?」
「喧嘩? んーん。してないよ?」
私の答えにお父さんは、困ったように笑った。