第9章 覚醒
「あのね。舞香ちゃんのお母さんってリクオ君のお祖父さん。ぬらりひょんと敵同士なんだ」
「なん、で?」
そんな事知ってるんだろう?
背筋がゾワリと震える。
カナちゃんが、お母さんの事とかぬらりひょんさんの事知ってるはずない。
2人の事を知っているのは、妖怪だけだ。
カナちゃんじゃない!
椅子から慌てて立ち上がりながら、後ずさり窓を背にする。
カナちゃんの姿をした妖怪は、そんな私の行動を不思議そうに見つめた。
「あら? どうかしたの?」
足が微かに震え、心臓がバクバクと鳴り、背中に嫌な汗が伝う。
「あなた、誰!? な、なんでカナちゃんの姿!?」
「舞香ちゃん? 私、カナだよ?」
不思議そうに首を傾げるカナちゃんは、人間そのものだ。
いつものように、すごく可愛い。
でも、口にする言葉が本人じゃない事を物語っている。
私は首を振った。
「お母さんとぬらりひょんさんの事。カナちゃんが知ってるはず、ない!」
「え? でも、有名だよ?」
「本物のカナちゃんだったら、奴良君のおじいさんの名前知らないはず!」
「知ってるわよ? それに」
と、カナちゃんがスッと私の後ろを指差す。
「そこのお爺さんも」
「フェフェフェ、三ツ目八面が言うておった娘はお前かのう?」
突然耳元で老人の声が聞こえて来た。
バッと横を向くとそこには、ガラス窓から長い頭を突き抜けさせた妖怪がいた。
縦に長い頭の真中に大きな目があった。
この顔、覚えがある!
羽衣狐編で出て来る、鏖地蔵!?
「ひっ、!」
踵を返し逃げようとした私の腕をカナちゃんが素早く掴んだ。
その握る力は強い。
まるで、男の人の力だ。
「離、っ!」
「娘。手間取らせるでないぞ。羽衣狐様の夕飯の時間までには、帰らねばいかんからのう」
「舞香ちゃん、どうして逃げるの? 友達でしょ?」
「は、離して! 妖怪!」
「あら? バレちゃった?」
「面の皮。バレバレじゃ」
「仕方ないじゃない。急に呼び出すから、まともに舞台も準備出来なかったし」
カナちゃんに化けた妖怪は、カナちゃんの顔でぷうっと可愛らしく頬を膨らます。
「文句は三ツ目八面に言うんじゃな。ワシも同じじゃて」
三ツ目八面……!?
確か、いつの間にか山ン本から生まれた妖怪にすり替わっていた妖怪!
何の為に私を捕まえるの!?