第9章 覚醒
次の日の放課後、教室の中で私は日誌を書いていた。
転校して来てから初めての日直の仕事だ。
一生懸命、書きたい。
授業の記録欄やHRの記録欄。書くことはたくさんある。
しかし、今日あった事を書き記せば良いから簡単だった。
でも、最後の『1日の反省』の欄で鉛筆が止まる。
今日の反省……
私は朝からあった事を思い起こした。
花の水やり。花瓶の水の取り換え。チョークの準備。その他もろもろ。
でも、ほとんど奴良リクオ君が、全てやってくれた。
「あれ? 私、日直の仕事してない?」
反省する事が無い!
いや、日直の仕事をしてない事自体が反省する事だけど!
正直に書いたら、絶対に先生から怒られる!
私は両手で頭を抱え考え込んだ。
「うーん。反省…。うーん……」
と、突然教室の入り口の戸が開いた。
「舞香ちゃん。まだ残ってたの?」
ん? この声は……
「カナちゃん?」
教室の入り口に立っていたのは、先に帰って貰ったはずのカナちゃんだった。
私は顔を上げると入り口に佇むカナちゃんに首を傾げた。
「どしたの? カナちゃん。忘れ物?」
「……そんなものかな?」
カナちゃんは人差し指を頬に当てそう答えを返すと、にっこり笑い、後ろで手を組みながら私の傍に歩み寄って来た。
そして隣の席に座ると、身体を前に傾け手元の日誌を覗き込む。
と、一瞬、違和感を覚えた。
あれ? 鞄は?
でもカナちゃんからすぐに声をかけられ、考える前に疑問は霧散した。
「日誌書いてるの?」
「うん。”1日の反省”の欄以外全部埋めたんだけど……」
「うーん。1日の反省なんて適当に書けばいいと思うわよ?」
「適当……。適当……。むーん。適当な文章が思い浮かばない……」
「そうねぇ、例えば……」
「うん」
次の言葉を待つ私に、カナちゃんは人差し指を口元に当てながら言葉を続けた。
「例えば、舞香ちゃんのお母さんへのお詫びの言葉とかどう?『奴良リクオ君と仲良くしてごめんなさい』とか。ね!」
「は?」
突然何を言いだすんだろう?
目を丸くしていると、カナちゃんは可愛らしくペロッと舌を出した。
「あ。ごめんなさい。舞香ちゃん知らなかったんだよね」
「カナ、ちゃん?」