第9章 覚醒
目の前にはどこにでも居る主婦のような髪型をしたお母さんが居た。
艶やかな黒髪を後ろで纏め上げ、普通のエプロンを着ているだけなのに、輝く美貌の中赤い唇が艶めかしい。
同級生の男子がここに居たら、全員がお母さんの艶めかしい美貌に目を奪われるだろう。
秘密だけど、私でも見慣れるのに、2,3年かかった。
私は今そんなお母さんを自室に招き入れ、ベッドに並んで座って貰った。
「なんじゃ?」
不思議そうに小首を傾げるお母さん。
私は、心を決めると思い切って口を開いた。
「お母さん。お母さんって雷獣っていう妖怪なんだよね?」
「そうじゃが……、突然どうしたのじゃ?」
「うん。あの、私もお母さんの血、流れてるんだよね?」
「当り前じゃ! 妾が必死の思いで産んだ我子じゃ!」
そう言うとお母さんは突然私を掻き抱いた。
頭がお母さんの胸元に押しつけられる。そして、頭をゆっくりと撫ぜられる。
なんだか、良い匂いがした。
「正真正銘。妾の血を引く子じゃ」
「だ、ったら……!」
「?」
「私もお母さんみたいに変身出来る?」
胸元から顔を上げ、見上げる私の顔をキョトンと見ているお母さん。
そういう質問をされるとは、思っていなかったらしい。
そんなお母さんに渡しは言葉を続けた。
「特別な力とか振るえるようになったりする?」
「ふむ……」
暫らく無言で考え込むと、静かに口を開いた。
「妾の一族で人間と添い遂げた者はおらぬ。なので半妖の舞香が本来の姿に覚醒出来るかどうかは知らぬのじゃ……。じゃが…」
「じゃが?」
お母さんの一族って、何か重要な事を聞いた気がするが、今は自分が変身できるかどうか…何か力を得る事が出来るのかを知ることが先だった。
「昔ぬらりひょんと言う妖怪が人間の嫁を貰ったが、その子もぬらりひょんとしての力を持っておった」
ぬらりひょんの子供と言うと、原作に出て来た奴良リクオ君のお父さん。鯉伴さんの姿が思い浮かぶ。
………、ってここ、『ぬらりひょんの孫』の世界だった!
と言う事は、十中八九、奴良リクオ君のお父さんの事だろう。
私は、原作に描かれていた鯉伴さんの姿を思い起こす。
黒く長い髪を靡かせ、江戸の町を闊歩する鯉伴さん。
知っているなら、詳しく聞きたい!