第9章 覚醒
奴良リクオ君は厳しい表情で去っていく玉章達を見つめている。
また胸が苦しくなった。
でも、これは捨てないといけない気持ちだ。
スーハー、と息を整えていると、ププッとクラクションを鳴らした車が、歩道の脇に停まった。
お父さんの車だ。
窓がスーッと開くと、お父さんが柔和な顔を覗かせた。
「#舞香#。帰りが遅かったんでね。迎えに来たんだよ。そっちはお友達かい?」
「あ、奴良リクオです。この前はどうも……」
「お、及川氷麗です!」
「おじさま、家長です。お久しぶりです!」
カナちゃんは、旧校舎の探検の時に知り合いになったから、判るのだけど、何故か氷麗ちゃんまで名乗っている。
普通、他人の父親に会ったら会釈する事だけが多いのに、何故だろう?
もしかして、お父さんの柔和なニコニコパワーの所為?
はて? と首を傾げていると、いつの間にかお父さんが皆を送って行くような話しになっていた。
お父さんって優しくて結構世話好きだからなぁ……
身体の大きい青田坊さんは、バイクで帰るらしく、他の3人はぞろぞろとお父さんの車の中に乗り込む。
そして、先程の嫌な感じを払拭するような楽しい会話を皆で交わしつつ、帰途についた。