第9章 覚醒
氷麗ちゃんは、私の肩に置かれていた奴良リクオ君の手を外すとそのまま腕を引っ張り、会議室の外へと連れ去っていった。
私はあっけに取られながら、それを見送る。
皆もポカーンとしたままだ。
と、私の後ろに居た清継君が、場の雰囲気を締めるようにノートパソコンをパタンと閉じた。
「それじゃあ、皆。時間も遅いしそろそろお開きにしようか」
「賛成ー!」
「もう6時じゃん!」
窓の外を見てみれば茜色の夕日がビルの向こうに沈んで行こうとしていた。
って、早く帰らないと、お母さんに怒られる!?
私は慌てて肩にカバンを掛けるとみんなに別れの挨拶をし、カナちゃんと一緒に靴箱へと向かった。
と、廊下の壁の向こうの玄関先からリクオ君の声が聞こえて来た。
「護衛だから仕方ないかもしれないけど、有永さんは関係ないじゃないか」
私?
ハテ?とクエスチョンマークを頭に浮かべる。
と、隣に居たカナちゃんも奴良リクオ君の声に気付いた様子で、玄関へと駆け出した。
「リクオ君!」
「あ、カナちゃんに有永さん!」
カナちゃんの呼びかけに私達の存在に気付いた奴良リクオ君は、いつもの明るい表情で迎えてくれた。
しかし、隣に居る氷麗ちゃんは何故かムスッとした顔をしていた。
そんな氷麗ちゃんに構わず、カナちゃんは平然と奴良リクオ君に近付く。
そして可愛らしく小首を傾げた。
「リクオ君。急ぎの用事じゃなかったの?」
「いやあ……あ、はは」
氷麗ちゃんが奴良リクオ君を強引に連れ去った姿を、急ぎの用事があり2人で先に会議室を飛び出したのだとカナちゃんは解釈したらしい。
乾いた笑いを零しつつ、斜め上を見る奴良リクオ君。
そして奴良リクオ君は紛らわすように話題を変えた。
「それよりも、もう清継君の話しは終わったの?」
「うん。リクオ君が帰ったあとすぐ……、ん?」
「?」
「リクオ君。カバンは?」
「え? あ! いっけね、教室置いたままだ! 氷麗が急に引っ張るから……」
ダッと教室に向かって駆け出す奴良リクオ君。
それを氷麗ちゃんが慌てて追いかける。
「待って下さい、リクオ君! 私が取りに行って参ります!」
と、その行く手を阻むように背の高い人がぬっと出て来た。
人間に化けた厳つい顔の青田坊さん(多分)だった。
その青田坊さんの手の中には肩掛けカバンが一つあった。