第8章 カナちゃんの誕生日
私は、突っ込まれないうちに話題を変えるべく口を開いた。
「そ、そーだ。あなたは、な、何故うちに?」
まだ、しどろもどろ感が残っているが、気にしないよう、願うしかない。
と、夜リクオ君は片方の口角を持ち上げると不敵に笑った。
「そりゃ、有永サンのおもしれぇ顔を見たかったからに決まってんだろ?」
は?
「それに、ついでだが、アンタが無事に帰れたかどうか確認したかったのもあるな……」
う、え?
えっと、もしかして心配してくれた?
多分、以前帰りに妖怪から襲われたから、気にしてくれたんだろうけど……
ついでだと付け加えられた言葉に胸がジンと熱くなった。
「あ、りがと……ございます。心配して、くれて……」
おずおずとお礼を言うと「気にすんな」と返された。
でも、クラスメイトの優しさに甘えるなんて良心が痛む。
「あの、お礼! 心配してくれたお礼したいので、欲しいもの言って下さい!」
私の言葉を受け、夜リクオ君はキョトンと不思議そうな顔をする。
そして数十秒無言で何かを考えると、私の方へ端正な顔を向けた。
何が欲しいんだろう?
やっぱりお酒かな?
またお母さんにおこずかいの前借りしないといけないな……
そう思いつつ、夜リクオ君の視線を受けとめていると、夜リクオ君は椅子からスクッと立ち上がった。
そして、突然夜リクオ君の姿が揺らめく。
「あ、れ?」
目が霞んでる?
そう思い片手で、ゴシゴシと目を擦る。
と、突然左横の窓から夜リクオ君の低い声が聞こえて来た。
「んじゃ、この絵貰って行くぜ?」
え?
声が聞こえて来た方に顔を向けると、片手に見覚えのあるスケッチブックを持ち、窓枠に足を掛ける夜リクオ君の姿があった。
そのスケッチブックは、私がさっきまで脇に抱えていたものだった。
何時の間に!?
「ちょっ、まっ!! それ、だめ!!」
慌てて取り返そうと窓枠に足を掛けていたリクオ君に詰め寄る。
そしてスケッチブックと取り返そうと、手を伸ばした。
「おっと」
夜リクオ君は、スケッチブックを持っている方の手を高く上げる。
妖怪に変身した奴良リクオ君は、私より頭一つ高いので、腕を高く上げられると届かない。