第3章 腹をくくりましょう
カナちゃんとの待ち合わせは、浮世絵町駅だ。
待ち合わせの時間に間に合うよう、数少ないカジュアル系の服、灰色の七分袖プルオーバーにジーンズを履き、お母さんに見つからないようソッと足を忍ばせ玄関へと行く。
台所で夕ご飯の用意をしているお母さんに声を掛けられないと言う事は、気付かれなかった、と言う事だ。
見つかったら、過保護っぽいお母さんは絶対反対をする。
私は、このまま、見つからないよーに!と願いつつ、スニーカーを履き、そっと玄関のドアを開けた。
「おや?舞香、どこかへ行くのかい?」
「わわっ、お父さん!?」
なんと、ドアを開けたら、お父さんが立っていた!
「お父さん、しーっ、しーっ」
人差し指を口元に当て、静かに、というジェスチャーをすると、お父さんは、はて?と首を傾げた。
だが、お母さんはお父さんの声を聞き逃さなかった。
後ろからパタパタというスリッパの音が近付いて来る。
「おお、今日は帰りが早かったのう」
「ただいま。芙蓉」
甘やかな声でお父さんを迎えるお母さん。
だが、すぐにお父さんの手前に居る私に気が付いた。
「舞香? どうして靴を履いているのじゃ? もうすぐ夕餉じゃぞ?」
気付かれたー!
私は、どう説明しようかと、ぐるぐる考えながら後ろを振り向いた。
でも、咄嗟に上手い言いわけは頭に浮かばない。
正直に出かける事を白状してしまった。
「えっと、あの、ちょっと出掛けないといけないとこが……」
「もう外は薄暗いぞえ? どこに行くのじゃ?」
「あー、えっと、き、旧校舎の探検?」
「ダメじゃ!」
お母さんの怒りを含んだ声が上がる。
「もし襲われたらどうするのじゃ!」
いや、平凡な私は襲われないって……
心の中で何度目になるか判らない反論を呟きながらも、俯きながらお母さんの言葉を聞く。
反論しても通じないもんなぁ…とほほー
でも、もしかしたら、行けなくなるかも……
どうしよう!
私は心の中で、慌てた。