第2章 昔ばなし
修道院の面々も揃っての夕食と後片付けも済み、エレナは帰り支度をしていた。
雪男「あっ……… エレナさん、帰るんですか?」
背後から聞こえた雪男の声に振り返ると眉尻を下げ、寂しそうな表情の雪男がいた。
エレナは困ったような笑顔を向けると、雪男に向け手を伸ばす。
「………おいで?……雪男。」
少し控えめに繋がれる手。
その手をそっと引くと、ゆっくり近づいてきた雪男の体をぎゅうと抱きしめた。
「そんな顔しないで?また来るから。」
にっこりと笑いかけると、雪男はほっとしたような表情を見せ、エレナの背中に手を回すと自らもぎゅうと抱きしめ返した。
雪男「……今日のオムライス、嬉しかったです。いつも…… エレナさんの作るご飯を食べると、頑張ろうって奮い立たせられるんです……。」
「雪男は充分頑張ってるよ。だから、たまにはこうして甘えにおいで?」
雪男「………はい///」
背中に回っている腕に力が籠る。
エレナはいつも、自分の気持ちや欲を抑えがちな雪男を、抱きしめ緩めてあげる時間を作るようにしている。
たとえ短い時間であっても、この時間が雪男にとって何よりも大切な時間であった。
雪男にとって、エレナという存在は、祓魔師としての尊敬と、人としての尊敬、そして、幼いながらも異性として特別な感情を抱いている相手だった。
エレナ「……じゃあ、獅郎に挨拶したら行くね?」
体を離すと再び寂しそうな笑顔を見せる雪男。
少しでも寂しさを消せるようにその頬を撫でると、ほんのりと色づく頬。
雪男「明日の任務は何処なんですか…?」
「台湾だよ。リュウに呼ばれちゃったからね。」
雪男「……気を付けて行ってきてくださいね。………また会えるのを楽しみにしていますから。」
雪男に笑顔を向け、頭をポンポンと撫でると、エレナは荷物を持ち、部屋を後にした。
残された雪男は閉まった扉を少しでも彼女を見ていたい気持ちで、しばらくの間見つめていた。
雪男「エレナさん……」