第2章 昔ばなし
柔造「なぁ、エレナは………」
重った二人の視線。
あとほんの少しで触れそうな唇が、お互いを求めてさらに距離をつめる____
トントン___
突然聞こえた扉を叩く音にビクリと跳ねる二人の体。
重なるはずだった唇は、離れてしまい、柔造は心中で舌打ちをしていた。
店員「失礼いたします。」
まもなくして入ってきた店員は水の入ったグラスとおしぼりをテーブルへと置くと、ご注文はお決まりでしょうか?、と聞いてきた。
「……せ、せっかくの再会だし、スパークリングワインで乾杯、とかどう?」
今だ頬を赤く染めたままのエレナが、少し照れたようにはにかむ。柔造はあと少しのところに邪魔が入ったことに、心中落胆するも表情には出さず、愛しい彼女へと笑顔を返す。
柔造「……ええよ。そうしよか。………あと、食べ物は___」
早くエレナと二人きりになりたい柔造は、適当に注文を済ませると、早く去れと言わんばかりに店員に視線を送る。
それを感じ取ったらしく店員は注文の確認を取るとそそくさと部屋を後にした。
再び部屋の中にはエレナと柔造の二人だけの空気が流れている。
柔造「………なぁ、エレナ。初めてエレナが、京都支部に来よった時のこと、覚えとるか?」
そんな中、エレナの柔らかな髪を撫でながら柔造がゆっくりと口を開く。
「………もちろん、覚えてるよ?三ツ又の白蛇の祓魔の時だよね。」
撫でられていることに気持ち良さそうにしているエレナが、そっと彼へと体を預けてきて。
柔造は、そんな彼女の様子が堪らなく愛しくて、自分の中に沸き起こる抱き締めたい衝動を必死で押さえ込んでいた。
柔造「………せや。あん時は、俺が12歳で、お前は13やったな。………今でも覚えてるで?初めて会うた時、エレナがあまりに綺麗やもんで、俺ら固まってしもたんやで?」
ははっと笑いながら話す柔造に、エレナも楽しそうに笑顔を返して。