第2章 昔ばなし
エレナは体の力が抜けていくのを感じながら、それでも力を振り絞り獅朗の体を、グイ、と押しやり、そのすっかり熱を帯びてしまっている男の眼を息も絶え絶えに睨み付けた。
「…はぁ、はぁ……だめ……。獅朗…。今は仕事中でしょう?」
獅朗「……チッ………何が仕事だ。そんなんどーでもいい。こっちは今すぐお前を喰いてぇんだよ。」
ついにはエレナを教室の外へと連れ出そうとする獅朗に、エレナは大きなため息を漏らすと獅朗にしか聞こえない小さな声でそっと呟く。
「………今無理矢理するなら……私、獅朗のこと嫌いになっちゃうから。」
獅朗「________っ!!なっ……そっ……それは……それだけは………駄目だぁぁああっっ!!!」
頭を抱え込み嘆き始めた獅朗の背中をポンポンと撫でながら、エレナは周囲を見渡し、少し頬を赤らめたまま困ったような笑顔を椿たちに向けた。
「先生方…お見苦しいところをお見せしてしまい、すみませんでした。…………さ、そろそろ時間ですし、流れの再確認を致しましょう。……………てことで、獅朗は自分の持ち場に戻る!」
獅朗「なぁ、ギリセーフだよなぁ?!ヤってねぇんだし、俺のこと嫌いになんねぇよなぁ!?」
必死な様子の獅朗を適当にあしらいながら教室の外へと誘うエレナの姿を、なおも唖然としたままの表情で見つめる椿たちだったが、開始時刻が迫っていることに気づき慌てて最終準備へと取りかかる。
「はいはい。嫌ってないですよ。だから頑張ってきてね?獅朗。」
獅朗「マジ?!それ嘘じゃないよな?!ちょ、おいエレナ____」
____バタン
獅朗が喚いていたことなど気にも留めずにドアを閉めるエレナ。
ふぅ、と小さく息を吐くと、くるりと椿たちを振り返りにっこりと微笑んだ。
「___では、改めて、本日からの認定試験にて監督官を勤めさせていただきますヴァチカン本部所属、上一級祓魔師のエレナ・桧山・アレヴィです。至らないところもありますが、どうぞよろしくお願いします。」
深々と礼儀正しく頭を下げる彼女の姿は、あまりに聡明で美しく、椿たちは声も出せずにただ見惚れていた。