第2章 secret.1 契約
何が起きているのか理解出来ない。
……ゴクンッ。
耳元に響く生々しい音。
全身に広がる鈍い痛み。
血、飲まれてる…。
そう理解するまでに随分時間がかかった。
涙が溜まった蓮華の滲んだ視界に映るのは、真っ白なカバーが黄色く変色している枕。
破れた布からは羽が顔を覗かせている。
「はぁっ…」
時折口を離して男が息を吐く。
その音が耳元で聞こえるが、またすぐに血を貪られる。
自分が貪られている音を聞きながらも蓮華の頭は冷静だった。
いや…訳の分からない事が起きている性で逆に頭が冷静になってしまっているのかもしれない。
ジュルッ…。
一滴も溢さないようにと舌で傷口から溢れる血を掬う男の姿を視界の端で捉えながら、蓮華は呼吸をすることを忘れていた事に気付く。
「はっ…」
蓮華の口から小さな息が吐かれる。
男はそんな蓮華を見下ろしたまま、血がベットリとついた口元を拭った。
唇の隙間から見える鋭い牙と、真っ赤な血を舐めとる鮮やかな赤い舌。
しばらく蓮華と男は目を合わせていたが、はっと何かを思い出したように男が目を見開いた。
「くそっ…!」
男は悔しそうに言葉吐き出すと視線を反らした。
まるで今の行いを後悔するように…。
……熱い。
先程まで貪られていた首筋が熱を持ち、どくどくと血管が脈を打つ。
痛い…。
しかし蓮華の体は相当の血を吸い取られてしまったからか、力を入れても指先がピクリと動く程度だ。
まだ蓮華の視界は涙で歪み、頬には涙の跡が残っている。
「仕方ねぇ…」
男がそう呟くと、何かを決意したように意思を持った瞳がまた蓮華と合わさる。
「呪うなら自分の運命を呪うんだな」
理解していない蓮華にそう告げた男は自分の親指に噛みつき、そこから滲み出た血を蓮華の首筋から滴り落ちる血と混ぜた。
そのまま躊躇いなく親指を口に含む。
何…?
そして朧気な意識のまま、その様子を眺めていた蓮華の顎にそっと手をかけた。
「んっ」