第2章 secret.1 契約
どうやって、と言われても返答に困る。
「えっ…と、気づいたら…?」
視線を泳がせながら答えると、男はちっと小さく舌打ちをして蓮華から視線を外した。
そして少し考えるような仕草を見せた後で、ポツリと言葉をこぼした。
「俺…か…」
「え…?」
聞き取れない程小さな声に蓮華が聞き返すも、男はそれを無視して体に力を入れて立ち上がろうとする。
ヨロヨロと起き上がる男に手を貸しながら蓮華も立ち上がろうとしたが、伸ばした手は無残にも払いのけられてしまった。
「…今すぐ、出てけっ…」
冷たく睨んで背中を押す男は苦しそうで…。
出ていきたいのは山々だがほおって置くことは出来なかった。
「病院行きましょう?」
「いらねー…て、つっ!」
優しく話しかける蓮華をあしらう男の虚勢。
躊躇う蓮華を他所に男は胸辺りを押さえると、その場に蹲ってしまった。
額に滲む尋常じゃない汗の量を目にした蓮華は、ポケットから携帯を取り出しロック画面を開く。
救急車って何番だっけ?!
半ばパニックになりそうな頭で考え、思い出した番号を指先で辿る。
その間にも苦しそうに荒く息を繰り返す男の背中をさすりながら、蓮華は携帯を耳に当てた。
プルルルル…プルルルル…
一定の機会音にもどかしさを感じならも、焦る心を落ち着かせつつ電話が通じるのを待つ。
《…はい、こちら119番どうされましたか?》
長い機会音の後にやっと繋がった携帯に向かって、蓮華は相手が言い終わる前に言葉を発した。
「あのっ、人が苦しんでて…って、わあっ?!」
なるべく伝わる様に状況説明をしていた蓮華の視界がいきなり反転して、体がベッドに投げ捨てられる。
カシャン…!
携帯は床に落ちて電話口から蓮華の身を心配するような声が聞こえるが、何を言っているのかは分からない。
「っ…たた…」