第2章 secret.1 契約
「おいしくなかった?」
「別に」
烙抖は蓮華と視線を合わせようとしない。
…どうしたんだろう?
蓮華が困ったような顔でイスに座ろうとしたとき、烙抖が口を開いた。
「人間の食べ物は吸血鬼の腹にはたまらないんだよ」
吸血鬼…。
忘れていたことを思い出させるその単語。
人間の蓮華と線引きをするように、突き放す烙抖の言い方。
忘れてた…。
見た目だけで言えば、普通の人間に見える烙抖。
ぐいっ!
「きゃっ」
小さく悲鳴をあげた蓮華の体は烙抖の手によって、ソファーに投げ捨てられる。
さっきまで烙抖が座って、テレビを見ていた場所。
「吸血鬼の俺様のめしは、お前の血だけだ」
烙抖もソファーに座り、蓮華の頭を挟むように手をつく。
言葉が違えば、ときめくセリフかもしれないが言葉が言葉なだけに、蓮華の体は硬直する。
「…っ、飲む…の?」
蓮華の問いに笑みだけを返し、烙抖は首筋に顔を埋めた。
「痛いのは最初だけだ」
耳元で囁いてその透き通る白い肌に牙をたてた。