第2章 secret.1 契約
「蓮華」
いきなり下の名前で呼ばれた蓮華は顔をあげる。
「なに…?」
「一人で住んでるのか?」
「そうだよ」
蓮華の実家から高校までは遠いので、高校に近いこの家に住んでいる。
蓮華の実家は呉服屋も営む老舗旅館。
そこそこ儲かっているからこそ蓮華はこの家、セキュリティが売りのマンションを買うことが出来るのだ。
「私、お風呂入ってくるね」
制服姿のままだし、昨日洋館に入ったせいかホコリっぽい。
「風呂?」
問いかける烙抖を無視して、蓮華は着替えを持って風呂場へと急ぐ。
なにやってんの…。
普通に吸血鬼と話してるし。
制服を脱いでいると、ふと洗面所の鏡の中にいる自分と目が合った。
昨日のことを忘れたわけではない。
今でも思い出すとゾッとする。
でも、何故かあの人を邪険にすることが出来ないでいる。
追い出そうとすれば追い出せるかもしれないのに、それをしないのは刻まれた刻印のせいか。
まとまらない考えを抱きながら、蓮華は風呂場に足を進めた。