第2章 secret.1 契約
「そんな…っ!」
あんな不可抗力で奪われた唇が契約?
無理やり飲まされた血が契約?
「契約は俺とお前を繋ぐもの。そして俺はお前の血しか受け付けない体となった」
呆然とする椿の手首を掴んで刻まれた刻印を見る。
「お前はただ俺に血を捧げればいい。…俺の餌としてな」
ニヤリと意地悪く微笑む男に怒りを覚えた。
「人のこと餌、餌って言わないでよっ!!」
掴まれた手を払いのけて立ち上がるが、すぐに視界が歪む。
「…っ!」
「っと」
バランスを崩した蓮華の体を受け止める男。
「離っ…して!」
その体を押し返すが、体が言うことを聞かない。
「ったく、よく言うぜ」
「なっ!」
視界がぐるりと回転して、男にお姫様抱っこをされていることが分かる。
「お前、名前は?」
「……」
せめてもの抵抗だ。
蓮華は黙ったまま彼を見上げる。
「言え」
「…椿、蓮華…」
低く命令する声に睨まれて、蓮華は仕方なく口を開いた。
いや、仕方なくではない。
その瞳が光る色に恐れを感じたからだ。
「そうか。俺は、天羽 烙抖(あもう らくと)」
あ、もう…?
珍しい名字。
「俺様に血を飲まれることを光栄に思うんだな」
耳元で囁かれた言葉と一緒に蓮華は眠りについた。