第2章 secret.1 契約
「それは契約の刻印」
低く響く声に蓮華の体が硬直する。
聞き覚えがあるその声に、蓮華はゆっくりと首を動かして後ろを振り向いた。
蓮華を見下ろすように立っている人物は、首筋に傷をつけた犯人。
「吸…血、鬼」
平然とそこにいる男に向かって、蓮華は指をさし、消え入りそうな声で呟いた。
その言葉を聞いて口元を歪ませて笑う男は、紛れもない吸血鬼。
赤い瞳に映る蓮華の怯えた顔を見て、満足そうに近づいてくる。
「そんなに怯えんなよ」
蓮華と視線を合わせる為に膝を折り、少ししゃがみこむ形になった男は手を伸ばし、牙の跡が痛々しく残っているその首筋に触れた。
「やっ…!」
冷たく爪の長い男の指先が触れ背筋が凍る。
「お前は刻印を刻まれた身。
これよりその身は俺に捧げ、餌となれ」
耳元で囁かれた低く、教え込む言葉。
何…え、さ?
一体何のことを言っているのか分からない。
契約だの刻印だの餌だの。
明らかに理解が出来ていない蓮華を見ながら、男は小さくため息を吐いた。
「契約。互いに混ぜた血を体内に取り込んだだろ」
混ぜた血…。
蓮華は記憶を手放す前に口に広がった鉄の味を思い出した。
あれが契約?