第1章 好きって言って
「お邪魔しまーす」
直樹がうちの玄関先でそう言うと、弟が飛んできた。
「直樹だー」
「ひさしぶり、大きくなったね。何年生?」
「3年! ううん、4年だ!」
弟が嬉しそうに直樹にまとわりつく。
…
リビングでテレビゲームする2人を、私は眺める。
直樹は小さいときも、4つ年の離れた小さな弟を邪魔者扱いせず一緒に遊んでくれた。
そのもっと前、弟がまだ赤ちゃんだったとき、お母さんを取られたみたいで寂しかった私のそばにいてくれて、優しくしてくれた。
そして今、中2になって、小4の子と遊んでくれるなんて、やっぱり優しいんだなぁ。
「おやつ食べる?」
私はテーブルにお菓子とジュースを用意して、2人に声をかける。
「俺、後でいい!」
弟がコントローラを握りしめながら答える。
「俺、食べていい?」
直樹が椅子に座る。
「いいよ。全部食べてもいいよ」
私は直樹に答える。
「全部食べるなよ、直樹!」
弟が叫ぶ。
「ごめんね。口の聞き方がなってなくて」
テーブルで直樹とお菓子を食べながら私は謝る。
直樹は楽しそうに笑う。
「いいよ。俺の小4なんてもっとバカだった」
「そうだっけ? んー…そのぐらいの頃からあんまり遊ばなくなったのかな…」
「そうかもね…」
ちょっと寂しいな…。
「そういえば、直樹、春休みの宿題やった?」
「宿題? 俺のクラスは宿題ないよ?」
「クラス関係ないでしょ…。クラス替えあるんだし。そういえば直樹、いつもそういうのバタバタしてたよね。よかったら手伝おうか? 今日のお礼っていうか…」
「えっ? いいの?」
私の提案に、直樹の顔がぱぁっと笑顔になる。
私はなんだか少しドキッとした。
「あ…えっとぉ…。家だと弟がうるさいから、直樹の家行っていい?」
「うん、いいよ」
弟に聞かれないようにコソコソ話す。
「あーっ! お菓子全部食べる相談してるだろー!」
弟が割り込んでくる。
私と直樹は顔を見合わせて笑う。