第1章 突然の来訪者
自嘲するようなその表情、そして自身を卑下するようなその言い方。まるで自分には一片の価値も無いような、底辺の人間なんだという様な説明だった。どうしてそこまで自分を過小評価するのか、私には分かるはずもない。彼はとても恵まれた人間だと思ったからだ。外見は美しいし、慎ましやかで謙虚な性格、柔らかな物腰。どれをとっても、自嘲をする理由など浮かばない。真っ向から否定する事も出来ただろう。けれど私が戸惑いながらもそれをしなかったのは、大して彼自身の事を知らない自分が大きな口をたたいて良いものか判断のしようがなかったからだった。
それでも。
「…あの、別に、嫌なわけじゃないんです。」
「…え?」
「確かにすごく戸惑ってるし、状況を理解するどころかまったく頭が追い付いてないんですが…。でも、篝さんの事が嫌とか、一緒に居る事が苦痛とか、そういうんじゃないです。何て言えばいいのか、軽率な事も言えないんですけど…その、あんまり、自分を蔑にしないであげて下さい。」
「めぐみ様…?」
「こんな事、私が言うのもアレなんですけど…寧ろ失礼だと思うんですが…。自分自身に認めてもらえない心って、すごく…すごく、つらくて寂しいと、思うので…。」
自分の言葉に嘘は無かった。
確かに状況にはかなり動揺している。理解するどころかまったく呑み込めていないのは否めない。しかし、彼の言う様に彼自身が嫌だとか、苦痛だとか、そういった事では決してないのだ。寧ろ会ってから今までのかなり短い時間だが、彼に好感を持つなと言う方が無理だった。彼の事は良く知らないが、悪い人間ではないだろうと、直感が告げていたのだから仕様がない。
それに加えて私の経験上、どうしても見過ごせない点も多々ある。彼は自分を疎かに…いや、蔑にして、卑下しているように見えたから。それは容認できなかった。どんな人間であれ、誰かに認められたいものだ。私なんかが言っても説得力はないが。軽率に口を出せる様な話ではないと重々承知の上で、言葉を慎重に選び、それだけを告げた。すれば、彼はポカンと私を数秒見つめてから、項垂れる。
まさか気分を害してしまったか、流石に突っ込み過ぎたか、そう思い内心すごく焦った。見るからにあわあわとする私をまるで無視して、彼は数秒堪えるように項垂れた後、更に私を困惑させるような行動に出てくれた。