第1章 突然の来訪者
固まる私を完全にスルーして、男―――篝朔夜はますます一層の悩殺スマイルを浮かべた。こんな美青年の訪問に、彼がただの宅配員や郵便員なら流石に私も目の保養だとにっこり笑顔を浮かべたかもしれない。しかし彼が発した『本家』と『警護』の二つの単語のおかげで、全てが台無しだった。今は嫌な予感しかしない。数秒間会話が途切れ思案する私に、篝さんは申し訳なさそうに申し出る。
「あの、申し訳ありません。不躾ですが、上げていただいても…?」
「え、あ…す、すみません!寒いですよね、ごめんなさい。どうぞ。散らかってますけど…。」
「いえ、僕の事は構いません。ですが、めぐみ様がお風邪を召されたり体調を崩されては一大事ですから。」
そう淀みなく言い切った彼に、私は固まった。そんな私をまたしても華麗にスルーをかまし、彼は礼儀正しく「お邪魔します」と言って家に上がりこむ。ポカンと立ち尽くす私に一瞬首を傾げた後、自然な動作で私を室内へ促した。その仕草はまるでどこかのお姫様をエスコートするかのように丁寧で、ガラス細工に触れるように繊細で、またしても私はビックリして目を白黒させることしか出来なかった。そんな驚きも、リビングへ繋がるドアを開けたことにより吹っ飛んでしまう。
「あ、あー…あの、今日の朝引っ越してきたばかりで、その、本当に散らかっててすみません…。」
「いえ、本家の方々からその節は伺っておりますので、大丈夫です。寧ろ荷解きの時間すら考えずに訪ねてしまった僕に非がありますので…。お気になさらないで下さい。」
「めぐみ様にお会いできるのを心待ちにしていた為、気が急いてしまって…」
恥ずかしそうにそう告げる彼に、状況が呑み込めないままときめいてしまった私を誰が責められようか。一体彼は何者で、何をしに来たのか。それは彼の言った『本家』が深くかかわっているのだろう。恐らく元凶だ。散らかっているというより、荷物が片付いていないリビングを一瞥して恥ずかしくなった。だが、彼の言うように荷解きの時間が無かったのだ。どうしようもないだろう。いろいろ聞きたいことはあったがぐっと堪えて、どうにかこうにか確保できたスペースに彼を誘導する。さり気なく先程まで自分が使っていたクッションを置けば、恐縮したように彼が慌てた。