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ブーゲンビリア

第4章 入学式





「めぐみちゃんはさ、実家暮らし?」
「あ、いえ。一人暮らしです。」
「そっか。じゃあ連絡とかは大丈夫だね。」
「はい。…あ。」
「? どうかした?」

実家暮らしなのであれば、飲み会に参加する旨を連絡しなければ、という意味だったのだろう。咄嗟に一人暮らしだと答えたが、それは最初の一瞬だったことを思い出す。だが、朔夜と私の関係をどう説明すれば良いかも分からず、別にいいかとそのまま流す。後ろめたい気持ちはあったが、ここで親族でもない男性と同居しているなどと言う話になると後々面倒だ。

携帯にふと視線を落として、家に連絡するべきか一瞬考える。そこで、思い出した。私は、朔夜の連絡先を知らない。

そう思い当たった瞬間、何とも言えないものが胸の中に込み上げてきて戸惑う。ああ、彼と私は所詮こんなものか。どんなに好意を表に出されても、私達の関係は結局『本家の雇った護衛とその対象』でしかないのだ。個人的な連絡先を知らないばかりか、私は、朔夜の事を何も知らない。朔夜は私の事は何でも聞きたがり知りたがる癖に、一度として自分の話をした事は無かった。話の流れで聞く事もあったが、知りたがるのに、自分を知ってほしいと言う素振りすら見せないので聞きはぐっている。

普通、好意を持つ相手には、自分を知ってほしいと思うものじゃないだろうか。恋愛経験ゼロの私が推測するには限界があるけれど。何だか酷くさびしくて、目の前できょとんする先輩に「何でもないです」と言って携帯をそっと鞄に押し込んだ。


「じゃ、かんぱーい!」
「かんぱーい!」

飲み会と言っても、私はまだ未成年である。なので頼める飲み物と言えばソフトドリンクくらいで。それでもオレンジジュースを飲みながら、これからの大学生活に思いを馳せて楽しく談笑していた。幸いにも同じ新入生達とも無事打ち解け、まだ名前と顔の一致は難しいものの当たり障りなく会話は出来ていた。それなりに、楽しいのだと思う。なのに楽しいとハッキリ言いきれないのは、彼の存在が脳裏に浮かぶからで。同居生活を始めてからこんなに長い間離れた事も、何の連絡もなしに夜まで家を空けた事は無かった。


「中山ちゃん、今日時間ヤバイの?」


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