第4章 入学式
嬉しそうに目を輝かせる男の先輩は、ぎゅっと私の腕をつかんでその奥へと誘う。人にぶつかりそうになりながら必死になってついていくと、弓道部のサークルの方々らしき先輩方が見えた。その周りには5名ほど、同じようにスーツを着た新入生らしき男女が集まっている。仲間かな、と逸る気持ちを抑えていると、私の手を取っている先輩が大きな声を上げてその輪へと加わった。必然的に手を引かれているので、私も加わる。
「この子も興味あるって!希望者!」
「おお、いらっしゃい。」
「こ、こんにちは。」
軽く挨拶をされたので会釈をすれば、周囲の新入生に混ざるよう促される。逆らうことなく輪に加わって話を聞く限り、アットホームな雰囲気のサークルの様でほっとした。メンバーの人達も飛び抜けて髪色や素行が目立つと言う先輩も居ない様で、とりあえずのほほんとした空気に安堵した私は、そのままの流れで弓道サークルに入る事を決めた。すれば、今日集まったメンバーだけで早速飲み会を開くらしい。少々早くないかと尋ねれば、単純に楽しい事が好きで和気藹々と飲みたいだけらしい。そこまで真剣に弓道に打ち込んでいるわけではないので気軽に来てほしい、と言われれば、断れない後輩の立場。
人の良さそうな先輩達だし構わないかと、私は少し迷った挙句頷いた。脳裏に朔夜の心配そうな顔が始終チラついたが、ぶんぶんと頭を振って考えないようにする。今までは家でも外出先でも始終一緒だったが、これからは違うのだ。大学があり、私は授業もあるしバイトもしたいしサークルだってある。
「…それに、朔夜とは…。」
―――恋人同士なわけじゃ、ない。
何故かズキンと痛む胸に首を傾げながら、私はそのまま同じ新入生と交流したり先輩方と話したりと時間を潰した。一瞬一度家に帰って着替えて朔夜へ一言告げるかとも考えたが、朝の件から気まずい雰囲気が続いているので何となく居心地が悪い。他の新入生は着替えに戻ったりするようだが、私は敢えて戻らず堅苦しいスーツのまま飲み会に出る事を決めた。