第4章 入学式
言いかけた私を遮る様に、首筋から顔を上げた朔夜は私の頬をそっと引き寄せる。あと数センチで口付けが出来てしまうほどの距離で、一瞬で気付いた私は咄嗟に朔夜を突き飛ばしてしまった。渾身の力で突き飛ばしたが、体格差は見ての通りで。朔夜にとっては少しふらつくぐらいの衝撃しかならなかったらしい。でも何とか朔夜の腕の中から抜け出すことに成功した私は、気まずい雰囲気をそのままに、椅子に置いた鞄を引っ付かんでバタバタと玄関へ向かった。
「も、もう時間だから!ごめん朔夜!行ってきます!」
「めぐみ様っ、」
真っ赤になっているだろう顔を見られたくなくて、縋る様に引き留める朔夜の声を無視して家を出て来てしまった。せっかく朔夜が作ってくれた温かい朝食を食べる事もなく…。
―――
「はぁ…。」
式の間中、出るのは溜息ばかり。帰ったら何といえば良いのだろうか、謝るべきだろうか、だがああいう事は恋人同士がするものなのだからこの場合私が謝られるべきなのだろうか、そもそも朔夜からは直接的な言葉は何もないのだからああいった行為はやっぱり控えるべきで…。
そんな事を考えているうちに滞りなく式が終わり、いつの間にか外に居た。既に新歓が行われている様で、通りはとても賑やかだ。サークル活動に入ってみるのも良いだろうかと、行く先々で声をかけられチラシをもらう。このままでは帰りずらいし、どこかのサークルに体験入部してみるのも良いだろう。時間潰しにはなる。逃げる方にしか考えられない思考に苦笑しながら、一番上に重ねられているサークル名を見る。
「…弓道か…。」
もともと興味のあったスポーツだった。だが、そこはどうやら男子のみの様で。女子は募集していないのかを見ると、マネージャーとしてなら募っているようだ。見てみるだけなら、良いかもしれない。軽い気持ちでそう思い、ぐるっと見回した先の弓道サークルの先輩方の元へと足を運ぶ。
「あの、」
「おっ!新入生!どう?女の子ならマネージャーとして募集してるよ!」
「…少し、興味があるんですけど…。」
「ほんと!?」