第4章 入学式
「とても良くお似合いです。」
「あ、ありがとう。」
頭を撫でられるという行為に最初は慣れなかったものの、事あるごとに朔夜がするのですっかり慣れてしまった。一層照れ笑いを浮かべる私を見下ろし、朔夜はうっとりと続けた。
「本当に、お美しい…。」
「ちょっと、褒めすぎだって。」
「そんな事はありません。ああ、言葉で伝えきれないのが悔しいほどです。こんなに美しい方を僕は今独り占めしているのですね…。出来る事なら、ずっと…。」
まずい、と思った。
最近の朔夜は、私が拒まない事を確認すると、そのスキンシップや好意の言動を益々激しくさせるのだ。その度に私は必死になって逃れようと何とか空気を換えるのだけれど、それでも朔夜の様な整った容姿の男性にやけに熱っぽい視線を送られれば、変な気にもなる。だからそうなる前に朔夜と距離を取りたかったのだけれど、私のそんな気苦労を見越したように阻まれる。
首裏と腰に手を回されて、ぐんと距離が近付く。私と朔夜ではかなり身長差があるから顔同士が近付く事はないはずなのに、朔夜の顔が目の前にある。つまり、朔夜は屈んでいるのだ。逃げ腰になった体を引き寄せられ、あっという間に首筋に顔を埋められる。叫び出したい私の心境などお構いなしに、すん、と首筋を嗅がれる。
「…めぐみ様、何かつけてらっしゃいますか?甘い香りが…。」
「あ、え、お母さんから、入学祝にもらった香水を、少しだけ…っていうか、朔夜、離し、」
「ああ、それですね。めぐみ様からはいつも甘くそそられる香りが致しますが、今日はより一層強いので。」
「!?!?!?」
「良い香りですね。…思わず、口付けてしまいたくなる程に。」
「っ!」