第3章 ショッピングモール
そっと頬に添えられた大きな掌が、撫でる様にさらりと首筋まで伝う。咄嗟の事に身を堅くして驚く私を見ながら、うっとりを頬を染めて更に続けた。
「ああ…めぐみ様…。」
甘く甘く紡ぎ出される自分の名前を耐えきれないと、私の中の警報がけたたましく鳴っている。ついには両の手が頬に添えられてしまい、カッと熱くなる自分の顔を隠したいのに隠せない。陶酔するような甘い整った顔が近付き、見ていられなくて目線を下に向けた。
恥ずかしい。とてつもなく恥ずかしい。
なのに、その手を振り払おうとは思えなかった。
「恥らってらっしゃるめぐみ様も、とても愛らしいです…。」
「っ、」
そっと伸びてきた白くて長い綺麗な指が、私の唇をなぞる。柔らかさを確かめる様に、くすぐる様に、やさしくあまいその動作に私はオーバーヒート寸前だ。全身で私が愛しいのだと告げてくるこの甘い空気に耐えられなくて、絞り出すような声しか出なかった。
「…入学式の、スーツを、買いたいんです。」
「はい。ご一緒します。」
漸く言えたその言葉は掠れた様なか細いものだったが、篝さんはしっかりと聞き取ってくれた。しかし私は解放される事はなく、嬉しそうににっこりと笑った端正な顔がどんどん近づいてくる。キスをされる、と思った時、殆ど反射的に目を閉じた。
こつん
「…?」
一瞬で近付いた顔は、ただただ身を堅くする私の額へそっと甘く柔らかい衝撃を与えた。触れたのは唇と唇ではなく、額。震える瞼をそっと持ち上げれば、至近距離で私を見つめる篝さんの瞳があった。思わず瞠目する私に更に目尻を柔らかく下げて、囁く。
「どこまでも、ご一緒します。」
それはまるで、神に祈る誓いの様だった。