第2章 目が覚めて
「…あの、」
「はい、なんでしょう?」
「…どこかでお会いしましたか?」
「え?」
「初めて会った時から、私を知っているような感じだったので…。私が覚えていないだけだったら、ごめんなさい。でも、どこで会ったのかとか、分からなくて。」
これは聞きたかったことだった。彼は初対面にもかかわらず私の名前や顔を知っていたし、状況に困惑している事も、果てには朝食をあまり食べられない事まで知っていた。だが、私の知る限り、彼とは初対面だ。彼の様に優れた容姿の親しい人間はいないし、一度会えば忘れられないような完璧な容姿をしている。私の事をそこまで知っていながらも、私は彼の事を知らないという現実が、なんだかしっくりこなかった。
次第に尻すぼみになっていく私の言葉を、彼は一瞬キョトンと聞いた後、笑う。それは、どこか懐かしむような、愛おしむような、慈愛に満ちた表情だった。
「…いえ。めぐみ様と僕は、間違いなく初対面です。…ですが、僕は一方的にめぐみ様を知っています。話すと長くなるので今は割愛しますが、僕はめぐみ様にお会いする為に、お守りする為に生きてきました。」
そんな大袈裟な。
と冗談で笑い飛ばしそうになったが、出来なかった。彼の目が、本気だったから。思わず目を丸くして驚く私に、彼は続ける。
「僕はめぐみ様の為に生きています。」
その表情に一切の迷いなんか感じられなくて、瞠目する私に彼はにっこりと笑う。そして向かいの席から徐に立ちあがり、私の座る位置から斜めの場所に正座した。再びいきなりの状況に困惑する私に気付いているだろうが、一切スルーされて彼は首を垂れる。思わず握っていた箸も放り出して、椅子から降りてオロオロするだけの私に言い放った。