第1章 紹介を兼ねたオープニング
「お兄ちゃん……たらしだったの……?」
「いや……違うから」
妹の立ち場所からは床にのびている佐々野は見えない。
だらしなく失神している男子高校生を見せるのは教育上よくないため、妹が佐々野を認識していなくて助かるが、それよりも俺が女好きに思われてしまうのは心外だ。
「どうしたの、千尋……え?」
買い物袋片手に、同じく入ってきた母も絶句。
母は妹より身長が高いから、佐々野の姿が見えているだろう。
そして妹とは別の考えをめぐらせただろうな。
俺が冷静に今の状況を分析していると、まったく緊張感のない声が、張り詰めた空気を打ち破った。
「初めまして。えっと……夜神先輩のお母様と妹さんですか? 私、江島夏樹と言います。今、皆でハロウィンパーティーの計画を立てようとしていたんですよー」
先ほど何も変わらずに穏やかに挨拶をする江島。
彼女の優しい雰囲気に母と妹の様子が変わった。
「あら、江島さんっていうのね。そうだったの? パーティー?」
ホッとしたような顔で袋をテーブルに置く。
母は一体何を想像していたんだ。
「お邪魔しちゃったようですね~。用事も終わったのでそろそろ帰ります」
江島が立ちあがると同時に、のびていた佐々野が目を覚ました。
佐々野の存在に気付いた妹がびくりと肩をはね上げさせる。
「ん……あぁ? あれ、なんで俺こんなところにいるの?」
どうやら記憶が一部欠損しているらしい。
桜原はやっと回復した佐々野に容赦なく肘鉄を食らわせると、「失礼しました」と言って、江島達を連れ家を出ていった。
あとに残された俺のことも考えてほしかった。
母と妹の興味津々な視線を感じながら、どうやって説明するかを考える。
パーティーは必ずするだろうし、俺に拒否権はない。
先輩が後輩に何も言えないというのは情けないが、言ったところで小野の事だから屁理屈で俺の事をねじ伏せるだろう。
だったら余計なことは言わない事だ。
とりあえず今週はパーティーの予定を立てなければな。