第1章 紹介を兼ねたオープニング
「?」
恐らく意図的にしたものではないのだろう。
ちょうど俺にも画面が見える角度に携帯を持った江島の指がパネルに触れる。
どこを開いたのか、画面に、桜原が近所で有名なファンシーグッズ専門店で、可愛らしいぬいぐるみを買っている写真が写し出された。
もしも江島が、もっと空気を読む事の出来る奴だったら、黙って携帯を佐々野に渡しただろう。だが残念ながら江島は『天然魔女』と校内で囁かれるほど緊張感に縁がない。
「桜原先輩って……」
だから江島が満面の笑みでこう言ったのも、当然の事だったと思う。
「ぬいぐるみがお好きなんですね」
瞬間、桜原の後ろ回し蹴りが、佐々野の胸部に放たれた。
▼◇▲
「ただいまー」
「お兄ちゃん、ケーキ買ってきたよー」
玄関から聞こえた声に俺は戦慄する。
今一番帰ってきてほしくなかった母と妹。この状況はかなりまずい。
桜原に回し蹴りを食らった佐々野は、そのまま吹き飛び花瓶に衝突。
その後も何度も蹴りを叩き込もうとする桜原を、なんとか俺と小野の2人がかりで宥め、現在に至るのだが――――。
俺の目の前にはぐったりとのびている佐々野。
事情をいまいち呑み込めていない江島。
まだおさまらぬ怒りに体を震わせている桜原と必死に落ち着かせている小野。
そして粉々に割れた花瓶。
……この状況を見た母と妹の反応が恐ろしい。
「おにーちゃーん?」
なんの躊躇いもなくリビングの戸を開けた、まだ10歳の妹は、目の前の光景に絶句した。
「あ~、こんにちは~。妹さん?」
おっとりと手を振って呑気に挨拶をする江島はもう放っておこう。
桜原と小野も妹の存在に気付き、体を強張らせる。
事態が危険な方向に進んでいる事に気付いたようだが、手遅れだ。