第6章 仮装をしましょうか。
『ほら、桜原先輩。行きましょうよ』
『嫌だ』
桜原を説得しようとしている江島と、断固として拒否する桜原の声が、リビングまで聞こえてくる。
そんなに嫌がるほどなのか? どうせ小野が何かしたんだろう。
「もぅ、桜原先輩来て下さいよー」
小野が、メイド服をひらひらと揺らしながら玄関へ桜原を迎えに行く。
心配しているようで顔がニヤニヤとしているから、桜原をからかうつもりだな。
「あっ、夜神先輩。一応先輩用の服を持ってきたので、『必ず』着て下さい!」
突然振り返って床に放置されている紙袋を指すものだから、反射的に「ああ」と答えてしまった。
しまった、と思ったが遅い。
小野は満足そうに笑うと「必ず着るんですよ?」と言い、玄関へ桜原を説得しに(からかいに)行ってしまった。
本当に小野は隙がない。
「小野ちゃんが用意したの? 着ろよ、夜神! どうせそれ着て外に出るわけじゃないんだからさ!」
佐々野が追い打ちをかける。
着ない事もできるんだが、絶対に小野が何か小細工をしてくるに決まっている。
大人しく従った方が身のためだ。
俺は今日何度目になるか分からないため息をついて、自室へと向かった。
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……こんなもんだろうか。
とりあえず小野から指定された服を着て、俺は小さくため息をついた。最近ため息をつくのが癖になっている。
自分の格好を鏡を見るのが怖い。よくもこんな服をチョイスしたな、小野。
だんだん怒りが湧いてくるが、もう何を言っても無駄だ。
「夜神~、鈴木先生来たぞ」
佐々野が階段の下から呼びかけてくる。耳をすますと、家族や江島達の談笑が聞こえてくる。
「今行く」
正直言って、この姿を小野達が見たらどんな反応をするかが恐ろしい。桜原の気持ちがよく分かる。
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「おおおおっ! 夜神、似合ってるぞ!」
俺の姿を見た佐々野の第一声がそれだった。