第4章 怪我
「まったく……そんなに焦るなんて、一体何を勘違いしたのよバカ」
ふん、と鼻を鳴らして冷たい視線を向ける桜原。
ニヤニヤしている小野を殴ってやりたい。
「でも心配してくれて嬉しかったです」
ふにゃりと笑い、照れる江島に怒りと恥ずかしさもなくなる。
江島には気付かれないように小さくため息をつくと、俺は家に帰ろうとした。
「どこ行くのよ」
桜原に呼びとめられ、振り返る。
「どこって家に決まってるだろ」
「は? あんた足を捻挫した女子を放っておくの? サイテーじゃん」
信じられないという風に言う桜原。
言い方がかなりキツイ。どうすればいいんだ。
「えぇ~? 私は大丈夫ですよ。一人で家に帰れます
」
そう言って、江島は立ち上がろうとするが、「痛っ」と座り込んでしまう。桜原の視線が鋭くなる。
「……別に俺じゃなくても、桜原達が送ってけばいいだろう?」
「私はこれから書道の稽古があるの。遅刻したらお婆ちゃんに叱られる」
「自分も急用が入りまして……残念だけど江島っちを送っていけないっす!」
小野は一体何が残念なのか。いや、それよりも逃げ場がない。
「……怪我をした少女を夜道に一人歩かせるなんて、夜神、見損なったわよ」
何を見損なったんだ。俺を呼んだのは、江島を家まで送らせるためか。
「頼んだからね」
何も言い返す事ができない。
「……江島、立てるか?」
俺が江島に手を差し伸ばすと、桜原が付け加えたように言った。
「あ、江島は今立てないから、背負ってね」
こいつ……。
▼◇▲
俺は今、江島を背負って人気のない道を歩いている。
江島はさっきから恥ずかしいのか、黙り込んでしまっている。非常に気まずい。
『私重いですからっ! 肩貸してくれるだけで大丈夫ですッッ!』と、半泣きになりながら、強制的に俺の背中におぶわされた江島には同情するしかない。
特に小野なんか、俺の背に乗せる気満々だったからな。