第1章 光が差し込む
「蒼世…蒼世」
その腕の中に力強く抱きしめている
少しだけ震える身体
伝わる涙の色
それでも蒼世は私のことを許そうとはしないようで先程の話を続ける
「何故…あいつのところへ行った?あいつのところへは、もう行くなと言ったはずだ」
私だけ、私だけは天火の秘密を知っている
あの時、誰にも言えなくて犲を抜けた理由
だから、どうにも放っておけなくて
けれど蒼世に話すわけにはいかないんだ
絶対に秘密にしてほしいと言われたから
「放っておけな…ん…!」
突然降ってきた唇
愛のないといったら嘘になるが冷めたように噛み付くキス
ただ唇に触れているだけの長いキスが暫く続く
私は何が起きたかよく分からなくなっていた
ついていけない思考
目の前には自我を失った彼
溶けていく闇に小さな光
手を延ばすが掴めない
ドクン、ドクン
心臓が一回一回の音を大きくさせる
彼の身体が次第に重くなる
いつの間にか彼と触れた唇に酔っていた
「はっ……」
唇をゆっくりと話した彼は我に返ったように身体が跳ねる
再び私を見つめると目を瞑って罪悪感があるような顔をした
そして、身体を起こした彼は倒れた私をそのままにしてソファーの最も端に座った
まるで距離を置くようにして
「悪い…つい、感情的になってしまった」
いつものように冷静さを取り戻した蒼世
滅多に見ない感情的な彼
確かに驚きはしたけれど誰にも見せない部分を見せてもらえたから私は嬉しい
どんな蒼世でも愛おしい
これは、自分が好きだと思う以上に重症かもしれない
両手で目を覆う
視界が暗くなる
桜の咲く夢を見る
目を閉じると見えてくる
君が笑った
心から笑ったあの瞬間
「雪のように散りゆく定め
明日になれば手のひらの中の記憶…」
浮かんだ君の顔が
忘れない
忘れられない記憶の断片
もう一度、言葉じゃなくていいから心から笑ってほしい
静寂が広がる部屋
歌い終わった私は姿勢を直し少し間を開けるようにして蒼世の隣に座った
「ねぇ…蒼世…」
ここから始めに戻るわけであるが、本当に心臓に悪いことをしてくれていると思う
綺麗な顔立ち、近い度に感じる蒼世の香り
私は蒼世に甘えるようにして彼の首に手を巻きつける
「好き、蒼世」
「愛している。ずっと側にいてほしい…」
甘えていい
私には貴方を愛す義務がある
それが私の運命だったに違いない