第1章 光が差し込む
蒼世の怒り狂ったような声が続いた後、部屋の中に静寂が訪れる
私は無意識に両手を伸ばして彼の首に絡ませた
近くなると彼の鼓動が聞こえる、君が生きている証
「大丈夫だよ。安心して…側にいる。蒼世…」
夢
幻想
奇跡
そんな言葉が似合うのではないだろうか
はらり、はらりと桜が舞う記憶
貴方はそこに立ち静かに笑っていた
誰にも見せない本当の笑顔を浮かべて
私はその隣で、ある歌を口ずさんでいた
<雪のように散りゆく定め
明日になれば手のひらの中の記憶
温かい手には、冷えきった剣(つるぎ)を
愛を感じようとも斬らねばならぬ
大切だというならば永遠の誓いを
貴方の傷は私が背負う
癒えることがなく、それが許されぬ心(きず)となる
朽ちたものは生きることはなく
永久にそのまま
もし貴方が光をくれるとすれば
一度だけ罪が許される瞬間があるのなら
今一度、貴方に触れたい
雪よ、彼に散りゆく白きものよ
どうか、敗者の血の涙を浄化せよ
そして永久(とわ)に安らぎを
約束を交えたあの日のように笑いを>
「相変わらず歌だけは美声だな」
「蒼世…!い、いたの…」
桜の花弁が舞い降りてくる中で、とある歌を歌っていた
題名は(雪の中の紅「くれない」)私は、この歌が好きで、よく口ずさんでいた
蒼世もこの歌を聴いている時は何故か穏やかな表情になっていたので、よく歌うようになった
きっとこれは愛している者同士が戦わなくてはいけないという切ないもの
きっと心では同じ思いなのに違う顔をしなければいけない悲しき昔の情景が浮かぶ
何故か、これは天火と蒼世が浮かんでくる
あの時、決別した思いは片方に届かず今も歪んだまま
「人というのは弱い部分がある、その歌のようにな。決して叶えられない夢がある。届かない言葉がある…いくら叫んでも…」
蒼世はポツリポツリと言葉を呟き出す
きっと昔のことを言っているのだと理解した
私はずっと見てきたから悲しい思いも全て喜びに変えてあげたいと思う
これは恋だ
貴方に笑って幸せにいてほしいという切な願い
「蒼世。私は離れないよ、ずっとずっと側にいる。蒼世が好き」
君が笑った
師の前で見せたような笑顔で
私も微笑んだ
幸せの景色で