第1章 光が差し込む
貴方には全てを失くした日の傷がある
友、夢、師…
これを一度に失くしたとしたら人は絶望を超えるのではないかと思ってしまう
経験したことのない私にはよく分からないけれど、また私が蒼世から離れてしまったら
それこそ蒼世は人の心を完全に遮断してしまう気がする
後ろ姿しか見えない彼の結ばれた髪が揺れる
サラサラと流れて、とても綺麗な夢を思わせた
外にいた空間とは違い
限られた空間に、また戻って来た
そして蒼世は振り返って手を離す
それから肩に手を当てた
帰って来るなり私はソファーに身を投げ出されることになった
「ぐおぁ…!」
瞬間的に目を瞑り暫く俯いている
怖くて目が開けられない
どうすればいいのか、どうされてしまうのか
きっと天火に頼ってしまった罰なのだ
揺れてしまった罪
黒く紅いおぞましいものが迫って来る気がした
「ぶっ…」
「…え?」
目を開けて蒼世を見上げると顔は横を向いて口に手を当てている
目元は笑っているように見えるのだが気のせいだろうか
そもそも笑われる意味が分からない
笑われたので何だか恥ずかしくなって内心わたわたと焦る
「色気皆無だな。その声…ふっ」
羞恥が一気に襲ってくる
顔に熱が集まってくるのを感じる
先程の倒れる時の声を思い出した
私は自分自身を呪った
なんという女らしくない声出したのだろう
「天火には色気あるって言われたもんね!この格好…わ、私…蒼世の、ために…頑張って……」
恥ずかしい思いと悔しい思いがごちゃまぜになり何を言っているんだか分からない
無意識で話しているような感じ
不意に上を見上げれば険しい顔つきの蒼世
気づけば、また蒼世を傷つけている自分がいた
「言おうと思っていたが…とりあえず、それを脱げ。今すぐにだ」
蒼世は狂い噛み付くようにして私の襟元を掴みそのまま押し倒された
眉間に皺が寄っている、悔しい苦しいといった感情が伝わる
ここで私が、また逃げれば答えは同じだ
少し怖いのは確かだが、そのまま彼の手に触れる
優しく貴方の全てを受け入れるようにそっと
「蒼世…私は、どこにも行かないよ。絶対に置いていかない。約束したよね、忘れてないよ」
でも、彼の顔から険しい表情は抜けなくて、蒼世らしくない怒号がこの部屋中に響き渡る
蒼世は怖がっている、一人になるのを
「いいから脱げ!!!」
君の心は何も届かない