第1章 死を運ぶ文鳥
3日目──
目を覚ますと、見慣れた天井が視界に映った。
頭が痛い…。
体を起こし、ベッドから抜け出す。
足元がふらつき、うまく歩けない。
その場に座り込み、頭を抱える。
昨日……。
「───っ…!」
あの光景を思い出し、頭を殴られた様な痛みが襲った。
あれは、夢なのかな。
ベッドの上に置いてある携帯を持って、電源をつける。
液晶画面に映し出された日付はやはり戻ってはいなくて、あれが夢ではないと証拠づけていた。
やっとの思いで立ち上がり、部屋を出る。
リビングに入ると、真剣な表情で話をする忠とお父さんの姿があった。
「あぁ香織。起きたのか。体調はどうだ?」
お父さんが私を見て、無理に笑顔を作って言った。
「よくはない……」
そう呟き、椅子に座る。
「そうか…。じゃあゆっくり寝てなさい。父さんこれから会社に行かなくちゃいけないんだ」
「え?休日なのに?」
「あぁ。ちょっと色々あってな」
鞄を持って立ち上がったお父さんの袖を咄嗟に掴んだ。
「ダメ…。行っちゃダメ!」
「姉ちゃん…」
私の思いを察したのか、忠は心配そうな表情で私とお父さんを交互に見る。
お父さんは困ったように笑い、私の手に優しく触れた。
「仕方ないことだから…。香織はしっかり寝てなさい」
「嫌だ!私も一緒に行く!」
もう誰も、死なせたくない…!
だがそんな思いはお父さんに届くはずもなく…。
私の頭を撫でたお父さんが、「大丈夫だから」と言って笑った。
「忠、香織を頼むよ」
「……うん」
私の手を振り払って、お父さんは行ってしまった。
私が、家族を守るって決めたのに。
お父さんまで死んでしまったらどうしよう。
私はこれから、どうしたら…。
「姉ちゃん。父さんは無事だってこと、信じて待とう」
忠は私の肩を掴み言った。
私は、溢れてきた涙を拭いながら、小さく頷いた。
「よしよし」
頭をポンポンと撫でられる。
弟にこんなことされるなんて思わなかった。
いつの間にかこんなに大きくなって…。
でも、安心する。