第1章 死を運ぶ文鳥
「ちょっと家に戻った隙に…ごめん、俺がついていながら……」
「高広さんのせいじゃ……とにかく今は、忠を助けなきゃ」
そう言い、私はドアノブに手をかけた。
「あっつ!」
反射的に、ドアノブから手を離す。
もう、直ぐそこまで火がまわってきているのか?
「忠!聞こえる!?」
「げほっ……姉、ちゃん?」
「忠!」
弱々しいが、確かに声が聞こえた。
早くしないと、手遅れになってしまう。
「今助けるから!」
「ダメだ、逃げろ!」
忠の言葉に、思わず動きを止めた。
何を言ってるの…。
「ここはもう、四方火に囲まれて逃げ場がない…。助からないよ。だから、俺のことはいいから早く逃げて!」
そんなの…。
「出来るわけないでしょ!?家族見捨てて、逃げれるわけないじゃん!」
忠の、苦しそうな咳が聞こえる。
早く、早く助け出さなきゃ。
死なせちゃダメだ。
「忠……きゃっ!」
ドアに火がつき、壁にまで火がまわってきた。
「忠くん!」
「高広さん……」
忠の、よく通る声。
それが、震えていた。
「最期の頼みです…」
「忠……!」
「姉ちゃんを、よろしくお願いします…!」
もう一度、名前を呼ぼうとした。
その時、リビングで爆発音がした。
高広さんは、放心する私を立たせ、腕を引っ張る。
そして、玄関にもまわりつつある火を避けながら、外に出た。
「……忠!」
そんな私の声が、虚しく夜空に響いたのだった。